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小噺専用
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 僕たちはいつだって一緒にいる。どんなに離れていたって、本当の意味で二人が離れ離れになることはない。何故なら僕の本体は君の左手に輝いていて、周囲が僕だと認知している体は仮初のものにすぎないから。

「……」

 目を通していた本のページを捲る指先が小さく震え、本体との間に奇妙な隔たりを感じた僕は意識を本体へと向ける。ルーラとの見えない繋がりを辿って行き着いたのは、見たこともない隠し部屋。ルーラと彼女に対峙するもう一人の少女。

<どちら様?>

 いつかこうなることは分かっていたから驚きはしない。けれどそれが僕のいないところで起きたことで、僕は彼女と離れたことを後悔する。一緒にいればまんまと誘い込まれるようなこともなく、彼女が望むとおり今年中は息を潜めていられたのに。

「仕方ないな…」

 力負けすることはないと分かっていても、僕は行動せずにいれない。一度目を閉じもう一度開いたときには視線は随分と下がり、ついさっきまで読んでいた本がソファーの下に転がっている。ルーラがミスティーと呼ぶ黒猫の姿からさらに意識を離し、僕は指輪の外で存在を保つために行使していた魔力を解いた。
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 レイチェルがはっと息を呑む音がはっきり聞こえた。
「リドルおま「レイチェル」…っ」
 彼女の怒りに満ちた声はルーラによって遮られる。立ち上がりかけていたレイチェルは、荒々しくソファーに沈んだ。
「……」
「大人気ないぞ、レイチェル」
「…何でそうなった」
 不貞腐れきった顔をしてそっぽを向いていたレイチェルの視線が、もう一度ルーラと、彼女を支えるリドルへと向けられる。
 ルーラは少し先の床を見つめていた。
「大丈夫よ」
「俺は! …そんな言葉が、聞きたいんじゃない…」
「本当に平気だから、気にしないで? …リドル、戻ろう」
「…つかまって」
 レイチェルのドロドロとした感情が空気を震わせる。ルーラとリドルが姿を消し、二人きりになった部屋の居心地の悪さにサラザールは顔を顰めた。
「放っておけ」
「…お前は大丈夫だっていったじゃないか、サラ。あの部屋に入れば、かけられた呪いはすぐ、に…」
 暖炉を見つめていた視線が徐々に見開かれ、やがて驚愕に染められた瞳がサラザールに向けられる。
 呆れをにじませた表情で小さく頷き、サラザールは交わった視線を逸らした。
「気付いたなら、どうすればいいかわかるな?」
「……」
「あいつらの問題だ。私たちがしてやれることはない」
「……もう寝る」
「あぁ、おやすみ」
 交わらない視線、虚ろな瞳を見て痛々しいと、なんとかしてやりたいと思ったのはレイチェルだけではない。けれど、何もしてやれることはないのだ。
「…私もお前も、まだ、無力なのさ」
 その原因が魔法ではないのなら尚更。

 抱きしめてくれる腕の中で、この腕が一番好き。
「リドル…」
 私だけの腕、私だけの温もり、私が独占できる唯一のもの。
「遅いわよ…」
 痛いくらいに抱きしめてくる腕が伝えるのは、温もりと不安、僅かな安堵と…沢山の後悔。
「私をいつまで待たせるつもりだったの?」
 離れなければ良かったと、震える腕が痛々しい。――私が欲しいのはそんなものじゃないのに。
「ルー、ラ…」
「泣いてるの? リドル」
「…まさか」
「そう」
 おはようと言って。あの悪夢は終わったのだと、私はもう独りではないのだと、告げて。
「気分はどう?」
「平気よ、リドルがいれば」
 この暗闇を終わらせて。
「……」
「リドル?」
「僕は…」
 私の不安を取り去って。

「感心しないな」
「…僕だって、出来るなら使いたくはなかったさ。彼女の魔力で、あんな呪文」
 心底そう思っているようなリドルの表情にサラザールは笑みを含んだ。呪文のもたらす効果を疎み、杖を向けられた相手を哀れむでもなく、ただ己の最愛の者の持つ力がその価値もない下衆に向けられることが耐えられないだなんて、なんという独占欲。皮肉でもなんでもなく本心から思う、彼ほどスリザリンに相応しい者はいない。
「しかも、ルーラの悪夢は解けていない。それをもたらした魔使いを再起不能にし、使い魔を殺しまでしたのに」
 だが彼は、感情的になりすぎた。
「……」
 彼自身が言った通り、術者が力を失った後も発動し続ける魔法は存在する。己もその手の魔法を操るのなら、少なくとも相手の口くらいは残しておくべきだ。手間をかけるのが嫌なら服従の呪文一つで事足りる。悪夢を解かせた上で、あの呪文をかければ何の問題もなかった。
「そんな顔をするな」
 深くゆっくりとした呼吸を繰り返すルーラは、リドルの指輪を介した呼びかけにも応えなかったのだろう。――リドルは今にも泣き出しそうな顔をしている。本人がそのことに気付いていない辺り、彼の中で事態は深刻だ。
「あの部屋を使っていい。クロウは置いていけ。入ったら力は一切使えないからそのつもりでな」
 こんなことに使うとは思いもしなかったと、皮肉っぽく笑いながら、サラザールはどこからともなく白い鍵を取り出した。ルーラを取り巻く鎖が姿を変え、本来の姿へと戻ったクロウが、鍵を受け取りリドルへ渡す。
「〝あの部屋〟?」
 ルーラの変化に伴ってリドルの姿も変わり、体格のせいで彼女を抱き上げるのも辛そうにしていたのが嘘のように、彼は足早に部屋を出て行った。
 二人を大人しく見送ったクロウに席を勧め、サラザールは手元の文献に目を落とす。
「レイチェルが暇つぶしに作った部屋だ。内側の魔力を完全に無効化する」
「それでは…」
「あぁ、」
 頭の隅では二人の動きを追っていた。
「リドルにはそうとう報[こた]えるだろうな」
 もうすぐレイチェルも戻ってくる。
「だが気にはならんさ。それでルーラが目覚めるのなら」
「……」
 それまでにルーラが目覚めなければ、戻ったレイチェルが何をする分かったものではない。
「本当に、真っ直ぐすぎて涙が出るよ」
 それだけは避けたかった。

「――やっと見つけたよ」
 口にする親しげな言葉とは裏腹に、心の中では絶対的な死をもたらす禁忌の呪文を紡ぎ、リドルは杖を振った。周囲は既に彼のテリトリーと化している。何をしようと咎められることはないし、彼自身やめるつもりもなかった。
 少なくとも、指輪の痛みが引くまでは。
「随分好き勝手やってくれたじゃないか」

 ――リドル

「お礼に呪文を一つプレゼントしてあげよう。僕だけが使える、特別な呪文だ」
 頭の中でルーラの悲痛な叫びが止まない。指輪は未だ主を助けられないでいる使い魔を責めるように指を締め付ける。当然の報いだ。
「彼女が死に僕が消えようと、この呪文が力を失うことはない」
 彼女から目を離した僕が悪い。だからこれは完全な八つ当たりだ。知れば彼女だっていい顔をしないだろう。
 ならば、
「――デュエスト・モール」
 知られなければいい。


「永遠の死を味わい続けろ」
 突然の眩暈。
「っ…」
 傾いた体を支えようと壁に伸ばした手は空を掻き、膝が石床に落ちた。痛みが体を駆け上がり、頭の奥へと喰らいつく。
 痛みをやり過ごそうときつく閉じていた目を再び開いた時、そこはもう見慣れたホグワーツの廊下ではなかった。
「――ッ!」
 声にならなかった悲鳴が頭を揺らす。ガンガンと、頭を鈍器で殴りつけられているような痛みが正常な思考を殺した。
 薄暗い室内、窓から見える半円の月、月光の中横たわる、――私。
「どう、して……」
 急かすように早まる心臓の鼓動が耳の奥で叫ぶ。あれは私、ルーラが捨てた、本当の……

「 シ ニ タ イ 」

「いや…」
「死にたいの」
「違う…」
「私は死にたいのよ」
「そんなことないっ」
 胸が張り裂けそうだった。目の前にある光景を追い出そうと目を閉じれば、瞼の裏に抉られた手首が浮かぶ。自分自身の肉を抉る感触、痛みを、私は今でも憶えてる。忘れられるわけがない。
「り…どる……リドル」
 縋るように抱きしめた指輪は確かな温もりをくれるのに、同時に触れた私の手は氷のように冷たかった。これでは、まるで……まるで?
「違う、違う違う違うっ、私は死んでない! 死ななかったの! 私は、助けられたのよ……」
 不意に頭をよぎった思考を振り払うよう頭[カブリ]を振っても、私を取り巻く過去は消えない。唯一の拠り所である指輪の温もりさえ遠のいていくような気がして、私は、ただひたすらにその名を口にした。まるで他に言葉を知らない幼子のように。私が唯一手に入れた、私だけの絶対の名を。
「リドル…」
 けれど彼が現れることはなかった。

「イッチ年生! イッチ年生はこっちだ!」



 人のざわめきが鬱陶しい。
 ここに、自分以外の人間が存在しているという事実が不快。



「ほら、行くよ」



 前を歩くリドルが繋いだ手に力を込めた。
 逸れないように。私が立ち止まっても、決して手放してしまわないように。



「さぁ、ついてこいよ――」



 目に見える繋がりを、下さい。






























「・・・漸く帰って来たか」



 久しく沈んでいた意識が浮上する。
 けれど、まだ、再会には早すぎる。



「おかえり、レイチェル」



 おかえり、ルーラ。










 待つことはもう、苦ではない。






























「気をつけなよ」
「大丈夫」



 最悪だった気分は空を見上げた途端嘘の様に晴れてしまった。
 漆黒の中に浮かぶ星々の瞬きが聞こえる。



「ありが――」



 不自然に言葉を途切れさせルーラが背後を顧みてもリドルは何も言わなかった。
 とすると、案外気付いているのかもしれない。



「ご一緒してもいっいでっすかー?」
「フォーマルハウト」



 この既視感に。
 けれどそれはアリアに出会ったときの比ではなく、「どうぞ」と、了承の言葉が自然口をついて出た。
 咎めるように声をかけてきた少年の名を呼んだ少女は一度逡巡するようにルーラを見遣り、早く乗ろうとせがむ少年に折れ小船に乗り込む。



「すまない」
「いいえ」



 そして気付いた。



「私はトゥーラ、トゥーラ・シルバーストーン」
「で、俺がトゥーラのフォーマルハウト」



 アリアの時よりも些か物足りない既視感。その正体に。
 今度は意図的に、人好きのする笑みを浮かべルーラはその名を告げた。



「ルーラ・シルバーストーン」






























 血と血が呼び合う。









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