「感心しないな」
「…僕だって、出来るなら使いたくはなかったさ。彼女の魔力で、あんな呪文」
心底そう思っているようなリドルの表情にサラザールは笑みを含んだ。呪文のもたらす効果を疎み、杖を向けられた相手を哀れむでもなく、ただ己の最愛の者の持つ力がその価値もない下衆に向けられることが耐えられないだなんて、なんという独占欲。皮肉でもなんでもなく本心から思う、彼ほどスリザリンに相応しい者はいない。
「しかも、ルーラの悪夢は解けていない。それをもたらした魔使いを再起不能にし、使い魔を殺しまでしたのに」
だが彼は、感情的になりすぎた。
「……」
彼自身が言った通り、術者が力を失った後も発動し続ける魔法は存在する。己もその手の魔法を操るのなら、少なくとも相手の口くらいは残しておくべきだ。手間をかけるのが嫌なら服従の呪文一つで事足りる。悪夢を解かせた上で、あの呪文をかければ何の問題もなかった。
「そんな顔をするな」
深くゆっくりとした呼吸を繰り返すルーラは、リドルの指輪を介した呼びかけにも応えなかったのだろう。――リドルは今にも泣き出しそうな顔をしている。本人がそのことに気付いていない辺り、彼の中で事態は深刻だ。
「あの部屋を使っていい。クロウは置いていけ。入ったら力は一切使えないからそのつもりでな」
こんなことに使うとは思いもしなかったと、皮肉っぽく笑いながら、サラザールはどこからともなく白い鍵を取り出した。ルーラを取り巻く鎖が姿を変え、本来の姿へと戻ったクロウが、鍵を受け取りリドルへ渡す。
「〝あの部屋〟?」
ルーラの変化に伴ってリドルの姿も変わり、体格のせいで彼女を抱き上げるのも辛そうにしていたのが嘘のように、彼は足早に部屋を出て行った。
二人を大人しく見送ったクロウに席を勧め、サラザールは手元の文献に目を落とす。
「レイチェルが暇つぶしに作った部屋だ。内側の魔力を完全に無効化する」
「それでは…」
「あぁ、」
頭の隅では二人の動きを追っていた。
「リドルにはそうとう報[こた]えるだろうな」
もうすぐレイチェルも戻ってくる。
「だが気にはならんさ。それでルーラが目覚めるのなら」
「……」
それまでにルーラが目覚めなければ、戻ったレイチェルが何をする分かったものではない。
「本当に、真っ直ぐすぎて涙が出るよ」
それだけは避けたかった。
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