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小噺専用
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 昼食は屋上で。
 それが暗黙の了解。あそこは私とララの特別な場所。
 ここは私達の学校でも、私達の住んでいた世界でもないけれど、



「――ララ」



 貴女は貴女だと信じてる。
 黒くて長くてサラサラで、羨ましいほどの黒髪は銀色に輝いていた。
 物語の比喩そのままの黒曜石の瞳は、息を呑むアイスブルー。



 サメタメノアナタヲワタシハシラナイ



 温かく笑って。
 また私がバカなこと言うから、仕方なさそうに私の隣で笑って。
 貴女を彩る色彩が変わっても貴女は貴女だから、私のララだから。
 だから一人にしないで、



「バカララ・・」



 貴女を追いかけてこんな所まで来たんだよ、私。
 屋上で一人きりなんて嫌。二人でフェンスに寄りかかりながらお昼にしようよ、そうしたらどんな世界でも二人の日常が戻ってくる。
 元の世界に帰れなくてもいい。だから側にいて、側にいてくれなきゃ・・



「どうしていないのよっ」



 また逢えたと思ったのに、目覚めれば一人。
 一度逢ってしまえばもう今の〝仲間〟に魅力を感じない、貴女ほど私を分かってくれる人はいない。いままでもこれからも。



「ララ・・」



 どうすれば貴女と離れずに済むの。
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「ねぇララ! 一緒にお弁当食べよう!?」



 廊下の向こうから駆けて来る人影にララは苦笑しながら立ち止まった。



「分かってる、屋上でしょ?」



 言葉と共に片手に持った包みを上げる。
 満足気に頷くとレイはララの腕を取り、今度は走らずゆっくりと歩き出した。



「さっすがララ、行こう!」
「うん」



 それが二人の日常。
 決して不変ではない、けれど限りなくそれに近い平和。



「でねっ、その後・・」
「なに、またエンヴィー?」
「そう! 久々に出てきてね、もう凄くカッコ良かったんだよ」



 屋上への階段へと差し掛かりララは気持ち視線を上向けた。



「それでね・・」



 レイの話は止まらない。



「エドがねぇ、」



 もったいぶった声で前置き階段を駆け上がると、扉に手をかけレイはララを顧みた。
 固い金属音。



「・・・あれ?」
「開いてないの?」



 ノブに手をかけたまま首を傾げるレイと入れ替わるように手を伸ばし、ララはノブを捻る。



「あっれ?」



 いつもと同じ、軽い手応えと共に開いた扉に今度はララが首を傾げた。



「変な捻り方でもしたの?」



 そして、



「!?」
「ララ!!」



 あまりにも唐突にそれは訪れる。



































「――夢?」



 辛うじて指先に引っ掛かっていた本が音を立てて床へと落ちた。
 幸せで哀しくて朧げなそれは――



「夢、か」



 所詮幻。
 部屋を照らす太陽は赤。まるで飛び散る鮮血のような色。



「屋上から見える太陽はオレンジ色だったね、レイ」



 けれど全ては気の遠くなるほど昔の話。



「貴女の顔が思い出せないの」



 少しずつ消えていった。



「貴女の髪は何色だった?」



 貴女の声。貴女の目。貴女の全てが失われる。
 残酷な知識だけが色鮮やかに蘇る。



「貴女が大好きな漫画なんだよ、私が憶えていても意味がない。私がいても意味がない」



 そうでしょう?



「貴女が彼に会うべきだったのよ」



 中途半端な私なんかじゃなくて。














 オレが目覚めて最初に見たのは、冷めたアイスブルーの瞳。
 笑うでもなく怒るでもなくただ無表情に見下ろしてくるその瞳に、今思えばその時囚われたのかもしれない。



































 【deep blue moon】



































「見つけた」



 夜の闇に落ちた声の主は幼い少女だった。
 月を背に立ち、人気の無い通りを見下ろしながら年に似合わぬ仕草で愚かな人をせせら笑う。



「共も連れてないなんてね」



 何の躊躇いもなく地を蹴ったのは紛れもない彼女の足。
 怪我どころではすまない高さからの跳躍に、声を上げたのは見事な着地を決めた少女ではなくそこを通りがかった軍将校。



「なっ、なんだね君は!!」



 長く伸ばされた銀の髪が風に靡く。



「――蛇よ」



































 人を喰らう、銀の蛇がいる。
「イヴ・・・?」

 それは、あまりにも唐突な変化。

「貴女は・・」

 その声に呼び戻される。

「アズラ?」

 失われたはずの記憶。
 生きていくために手放した大切なもの。

「イヴ、髪が・・」
「来ないで」

 冷ややかな声で言い放ち、イヴは肩にかかる髪を背に払った。
 拒まれたアズラは目を見張り立ち止まる。

「エドワードと一緒にいるんでしょ? アズラは」
「なんでそれを・・」

 言動の端。
 ささやかな違和感。

「だってここは第五研究所なのよ。今日ここにいる理由はそれしかない」
「どういう意味?」

 アズラはその表情に困惑を滲ませ、イヴは驚きを悟られぬよう目を細める。
 たった一人で動くべきではなかった。

「そう・・」

 イヴは低く床を蹴った。

「イヴ!?」

 驚いたように声を上げるアズラの鳩尾に拳を入れ、崩れた体を抱きとめる。

「ど、して・・」
「ごめんね」
「イヴ!!」

 見知らぬ声。

「あらら・・」

 その声に振り向いたエンヴィーが声をあげ、イヴは首を傾げる。

「おチビさんと、一緒にいた子?」
「っていうか何でイヴの名前知ってるのさ」

 遠巻きに見ていた。
 太陽のように輝かしい髪を持つ少年の隣にいた、闇色の髪の少女。

「イヴ、なんでここに・・・」
「知り合いなの?」

 ラストの問いにイヴは首を振り、一歩踏み出した。

「イヴ?」
「アズラ・イール・・かな、合ってる? エンヴィー」
「あってるけどさ、いい加減覚えなよ」

 呆れたようなエンヴィーの声。
 苦笑するイヴに違和感を感じ、アズラは一歩後退さった。

「エンヴィーが覚えてれば・・」

 低く床を蹴る。

「問題ないでしょ?」

 鳩尾に拳を入れられ、崩れ落ちるアズラを抱きとめながらイヴは振り返った。
 エンヴィーは「まぁね」と肩をすくめ、ラストは二人を急かし歩き出す。

「持とうか?」
「お願い」

 動かないアズラをエンヴィーに渡し、イヴは一度目を閉じた。
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