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小噺専用
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 どうして気付かなかったんだろうと思いながら、知らず知らずのうち下腹部へ添えていた手を引き剥がす。

「産まないつもりか?」

 それだけで私がそこにあるものについてどう思っているか分かったのだろう。目敏い医者に「産めるもんか」と吐き捨てる。

「こんなのはただ足枷にしかならない」
「そういうもんかねぇ…」
「そもそも私が十月十日も大人しくしてられるもんか」

 大体にして人を殺し続けなければまともに生きてもいけない身の上だ。

(うっかり)


----


 くるくるくるくる。手慰みに物騒なものを回すルナの視線が自分の方へ向けられたことに気付きながらも、気付いたことに気付かれたら後はもうなし崩しだとわかっていたので、文弥は努めて無関心を貫いた、

(ひまないもうと)
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「今日からここで寝よう…」

 だらしなく床へ寝そべり、時折意味もなく呻いていたかと思えばそんなことを言い始める。本当に実行したら夜中に床の冷房と暖房を切り替えてやろうと考えながら、雲雀は一先ず目障りな図体をどうにかしようと足を上げた。

「…恭弥君、何かなこの足は」
「僕の足だよ。見てわからない?」

 やっぱりリナは暑さで少しおかしくなっているのかもしれない。

「……その足が私の背中に乗ってる理由を聞いても?」

 そんな当たり前のことさえ分からなくなっているようなら重症だ。これ以上悪化する前に一思いに殺してやるのが親切というものだろうと、雲雀は容赦なくリナを踏みつけた右足へ体重をかけていく。

「踏み潰して欲しそうだったから、望み通りにしてあげようと思って」
「やっぱりか…!」

 わたわた逃げ出そうとしたって今更手遅れだ。雲雀は無防備に晒されていた背中の中心を違わず押さえ込んでいる。

「私一応お前の恋人だよな? 彼女に対してこの扱い?」
「嫌なら他をあたりなよ」
「いや嫌とかそういうことじゃなくてだな…」

 それでも本気でどうにかしようと思えばどうとでも出来るだろうに、早々脱出を諦めたリナはくたりと脱力して「もうどうにでもして」と言わんばかりの体だ。
 つまらない。

「もっとちゃんと抵抗したら」


 普通に道を歩いていてバズーカに当たるだなんて考えても見なかった。そんな馬鹿な話、恭弥だって俄には信じてくれないだろう。

「ありえねー…」

 そもそも避けられるはずだった。それがどういうわけか当たってしまって、十年バズーカだと当たりは付けていたものの心臓に悪い。

「――何が?」

 視界を遮る煙が晴れきるより前。気配はなく、それでも極近から聞こえてきた声に飛び退いたのは咄嗟。《バタフライラッシュ》を出したのは条件反射で、けれど殺気の類がないために銃口の行き場はなかった。

「…思ってたより変わらないな」

 ひらりと舞った蝶が差し出された指先にとまって翅を畳む。

「お前…」

 ようやく晴れた煙のその向こう。見知らぬ、けれど見覚えのある顔を見つけて思わず息が止まりそうになった。

「恭弥、なのか…?」
「そうだよ」


----


「十年後の世界へようこそ」


----


 おいでおいでと手招かれて近付き方が恐る恐るになったのは、恭弥があからさまに私のことを面白がっていたから。お互いに手を伸ばせば届く距離にまで来ると手を差し出され、これにもまた恐る恐るの体で手を重ねた。

「君が十年バズーカを避けられなかったのは、この時代の君がそういう細工をしたからだよ」
「細工…?」
「詳しくは聞いてない。体に害はないし効果も一時的なものらしいけどね」
「なんだそれ」

 促すように手を引かれてソファーの隣へ。座ってみると、恭弥の方が目線が高くて妙な感じだ。

「君のすることだよ」
「…信じてるって?」
「現に成功した」

 私が無事でここにいることを示すようぐしゃりと髪を乱す。本当に何の心配もしていなかったらしい恭弥には悪いが、時代が違うとはいえ私が私にすることだ。恭弥に説明できないような荒技を使ったに違いない。要はバレなければいいのだと自己完結する自分の姿が目に浮かぶ。

「…ちょっと待て、」
「なに」

 ということは、だ。

「私はこっちに来たんじゃなくて来させられたのか」

 バズーカにあらかじめ細工がしてあったということは、つまりそういうことなのだろう。

「これから始まる計画にこの時代の君が邪魔だったんだ」
「邪魔、って…」

 それにしたってもっと言い様というものがあるだろうに。

「私って結構便利じゃないか?」
「便利すぎたんだよ」
「えぇー…」

 便利すぎて邪魔って何だ。

「おいルナ、そろそろ起きろよ」
「……しね…」

 寝起きの第一声がそれってどうなんだと、思いはしても口には出さない。呆れ混じりで顔を顰めるにとどめて、文弥は遠慮なくルナの毛布を剥ぎ取った。
 むしろ遠慮するべきなのは目を開けるなり殴りかかってくるルナの方だ。

「うおっ…」

 容赦も躊躇もなく急所狙いの攻撃をギリギリかわして、安全圏まで退避する。しばらく枕以外何も無いベッドの上で呆けていたルナは、まだ寝足りなさそうに目をこすりながらずるずる起きだした。

「お前いい加減自分で起きろよな」
「……るさい…」
「まったく…」

 鳩尾の辺りに重みを感じて目が覚めた。

「……きょうや…?」
「なに」

 床に直接座った恭弥の頭が乗っている。

「どした?」

 何の気なしに髪を乱すと気持ちよさそうに目を細めながらぐりぐり顔を押し付けてくる。ぐりぐりぐりぐり。懐きに懐いてやがて動かなくなった。

「恭弥」
「…なに」
「眠い?」
「別に」

 転寝のつもりがつい眠り込んでしまったらしく、窓の外はとっくに暗くなっている。

「起きていい?」
「好きにすれば」

 そう言いつつ自分からは動こうとしない恭弥だ。だけどこのままじゃあ私が二度寝してしまう。服越しの体温はどうにも心地良くていけない。

「きょうや、」

 少し荒っぽく髪を掻き乱されてようやく、億劫そうに首をもたげる。また寄りかかられないうちに体を起こすと、今度は膝へ。

「やっぱり眠いんだろ」

 ソファーの上へ引き上げても抵抗はない。

「少し寝る?」

 織姫と彦星の話はまぁいいとして。

「どうしたのさ、それ」

 他意なく不思議がっているような視線を受けて、ほんの一枝しかない笹を揺らして見せる。

「もらった」

 帰りがけ、七夕にかこつけパーティーじみたことをするから来ないかと沢田たちに誘われて、断った時に「じゃあ気分だけでも」と御裾分けされた笹だ。二人分の願い事くらいなら吊るせるだろうし、そうでなくとも確かに気分は味わえるだろうとありがたく頂いてきた。

「そういう日だろ? 今日」

 それをただの酔狂のように笑って差し出す。

「あと七夕ゼリーも買ってきた」
「…林檎の星が入ってる?」
「そう」
「昨日も食べたよ」

 声に呆れを滲ませた恭弥に「そうだっけ?」と、とりあえずはとぼけておく。それを言うなら一昨日もだし、実のところ私は明日も食べるつもりでいる。

「君って、気に入ったらひたすらそればっかりだよね。すぐ飽きるくせに」
「飽きたら飽きたでいいんだよ。満足したってことなんだから」


 広目のベッドに上掛けは二人分。一緒に寝はしてはお互いに背を向け合っていることが常で、手を伸ばすだけで簡単に縮められる距離がなくなることは滅多にない。あったとしてもそれはいつだって私からで、恭弥からはない。


 ごろりと恭弥の方へ寝返りを打ち、納まりのいい場所を求めて丸まり直す。


 不意に目が覚めたのは思いがけず触れられたからで、けれど眠りを妨げられたことに対する不快感は全くといっていいほどなかった。むしろ何をする気なんだろうと興味の方が勝る。
 上掛け越しに頭の上へ乗せられた手はしばらくの間ぴくりともしなかった。それでも辛抱強く待っているとゆるゆる頭の形を確かめるよう動いて、ベッドの傾きが変わる。引き寄せられたように感じたのは錯覚で、実際に寄ってきたのは恭弥の方だ。上掛けの中へ完全に潜り込んで丸くなっている私の頭を抱え込むよう体を寄せて、細々と嘆息。
 いっそ引っ張り出してくれればいいのに。


 ずるずる上掛けの中へ引きこもうとしたら逆に剥かれた。まぁそれで大人しく抱き込まれてくれるなら構わない。

「ちょっと、」
「んー…」
「…鬱陶しいよ」

 口でなんと言おうがそれに見合う攻撃がなければ説得力に欠ける。抱き込んだままの体勢で落ち着こうとしても暴れる素振りさえ見せないのだ。

「なぁ、恭弥?」
「…なに」
「好きだよ」
「だから?」
「大好き」
「寝ぼけてるの」
「愛してる」
「…知ってるよ」
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