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小噺専用
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 初めて入った「漏れ鍋」の中は取り合えず騒がしかった。



「いつもこんな風なの?」
「いや、多分彼がいるからだよ」



 彼?
 リドルが指差した店の奥を改めて視界に入れると、ルーラは途端目を輝かせリドルの袖を掴む。



「ここ一巻軸なんだ!」



 視線の先には大人たちに囲まれた大男――そこにはハリー・ポッターもいるはずだが、ルーラには見えなかった――が一人。誰に言われずとも分かる、あんな大男一人しかいない。



「そうみたいだね」



 ルビウス・ハグリッド、禁じられた森の番人。



「ホントバカそうな顔」
「満面の笑みでそれはどうかと思うよ」
「リドルだって」



 行こう。
 掴んだ袖を引くように歩き出したルーラに続き、リドルは「まぁね」と軽く頷く。
 自分は物語の中のトム・リドルとは違う、けれど同じ。だから彼を陥れたのは自分でありそうでない。



「そういえば、ここって杖なしで開くの?」



 中庭への扉に手をかけてから首をかしげ尋ねてくるルーラに、リドルはもう一度――今度は笑顔で――頷いた。
 ルーラと繋いだ手とは逆の手を見せ付けるように視線の高さまで上げ、弾き鳴らす。



「お、凄い」



 大して驚いた風もなくルーラは出来上がったアーチを抜けた。



「君もやろうと思えば出来るよ」
「そうなの?」
「今だって君の魔力でやったんだしね」
「へー」



 物珍しそうに辺りを見回すルーラの離れかけた手を、リドルは指と指を絡めるように繋ぎなおし引き寄せる。



「まずどこにいく?」



 ルーラの視線はまだ周囲に釘付けだった。



「んー・・軽いものから?」
「なら杖か制服」
「じゃあ制服で!」
「いいよ、行こう」










 それはまっとうに生きている人間もそうでない人間も、必ず一度は聞いたことのある鳴き声。



「・・・」



 リドルに手を引かれているのをいい事に、ルーラは軽く雲のかかった空を真っ直ぐに見上げ、そして見つけた。



「 おいで 」



 自分を見下ろす、リドルのそれとは違う真紅の双眸。
 バサリと羽を広げ、それは建物の屋根から飛び立った。



「ルーラ?」



 立ち止まったルーラにつられたリドルが訝し気に振り返る。



「 いい子だね 」



 高く上げられたルーラの左手に、1羽の烏が舞い降りた。










「 名前は? 」



 むきだしの肌に爪も立てず器用に羽根を休めた純白の烏に問いかけ、返らぬ答えに気を悪くするでもなく腕を肩へと近付ける。
 跳ねる様に腕から肩へと移り、烏は目を閉じた。



「アルビノだね、それ」
「そんな感じの色だね」



 呆れまじりのリドルに笑顔で返しルーラは歩き出す。



「連れてく気?」
「ペットじゃないよ?」
「そう」



 それ以上リドルが烏に注意を向けることはなかった。




















 ――見つけた




















 邂逅の刹那行使されたのは彼女の術と同種の力。









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 透き通った空。頬を撫でる心地いい風。
 ジャラジャラと全身につけたアクセサリーが歩くたび揺れた。



「すごーい」



 極めて平坦な、声。



「ねぇリドルぅ?」
「・・・その気持ち悪い話し方止めてくれるかい?」
「ひっどぉい」
「ルーラ」



 いい加減本気で怒り出しそうなリドルの声を耳に留め、ルーラは貼り付けたような笑みを拭った。



「リドルはこういう笑い方好きだと思ったけど?」



 からかうように紡がれた言葉に軽く肩をすくめ、リドルは進行方向に向き直る。



「ルーラのはわざとらし過ぎ」



 ひっどぉい。
 けれどこの声には自分でも鳥肌がたった。










「それで?」
「?」
「さっき何を言おうとしたの?」



 どこにでもいるようなマグルの格好で二人並んで歩く。
 勿論行き先は彼の「漏れ鍋」、ダイアゴン横丁への入り口があるパブ。



「あぁ、さっきのね」



 ルーラは何気なく首を巡らせた。



「ただちょっと気になっただけ」
「何が?」
「だってリドル、リドルのままだから」
「・・・あぁ」



 見つめる先には真紅の瞳と漆黒の髪。
 リドルはただ進みすぎた時計の針を巻き戻すかのように若返っただけ、だからきっと学生時代の彼を知る人が現われれば気付かれてしまうだろう。――彼は偽名を使う気もないと言っていた。



「そのことなら心配ないよ」
「何で?」



 そしてその〝誰か〟は確実にホグワーツにいる。



「彼女がうまくやってくれたらしい」
「うまく?」



 というか、いなければならない。
 彼は所謂「光」に属する魔法使いたちにとって、なくてはならない存在なのだから。



「誰も僕がトム・リドルだとは気付かないように」
「・・・ふぅん」
「わかってないでしょ」
「9割方」



 彼の名はアルバス・ダンブルドア。



「要はリドルが言った「僕は君の知ってるトム・リドルであってそうじゃない」っていうセリフの、「そうじゃない」ってとこだけ強調して無理矢理頭に刷り込んだ・・って感じ?」
「わかってるじゃないか」



 よく出来ました。
 そう言わんばかりに頭を撫でてきたリドルの手を払い落とす事も出来ず、ルーラは顔を顰めた。



「何この子ども扱い」
「子供だろ?」
「リドルだってガキのくせに」
「そんな事言ってると塞ぐよ」
「・・・」



 降参の意を示すように両手を挙げ肩を竦める。
 取り合えずリドルがリドルだとばれないのなら問題はない。



「リドルってやっぱり黒いよね」
「スリザリンだからね」



 だって初めから目をつけられてちゃ何もすることが出来ない。



「私も多分スリザリンかな?」
「十中八九」
「色々病んでるしね」



 私は全てを思いのままに進める、今度こそ。










 遥か頭上を白い烏が横切った。









「――!!」
「―――」



 階下から聞こえるくぐもった声は、それが怒声だとはっきり分かるのに内容がわからない。
 かすかに聞こえる言葉を繋ぎ合わせたって無駄。もう誰が何をしようと関係ない。
 関係なくなる。



「悲劇のヒロインなんてガラじゃない」



 右手に持ったのは何処にでもあるようなツールナイフ。
 父さんが私にくれた最初で最後のプレゼント。



「でも、状況だけならそう言えなくもないんじゃない?」



 自分自身に嘲笑まじりの問いを投げ、手首にナイフを突き立てた。
 動脈を抉るように深く、深く・・



「さよなら、私」



 主のいない水槽に腕を浸して目を閉じた。





「今のお前に別れを告げな」





「――・・・」



 開け放った窓を背に立った一人の女。
 普通ならありえない。だけど、今日ならどんな不思議だって受け入れられるような気がした。



「何しに来たの? 死神さん」



 真っ黒い外套に、その隙間から垣間見える鎖。
 何て美しい死神。彼女に連れて行かれるのなら、死出の旅路にだって胸が高鳴る。



「言っただろう?」



 __ジャラッ..



「俺はお前を掻っ攫いに来たんだよ」



































「俺はルーラ。・・まぁ、今は憶えなくてもいいけどな」



 霞の様に消え失せた少女。残された漆黒の女。
 クツクツと湧き上がる笑いを押さえようともせず、ルーラは足元の水槽を蹴り倒した。



「それにしてもエグい」



 広がる、紅。



「〝君〟がやったんだろ?」



 いつのまにか自分の背後に立っていた男を顧みる事はせず、フローリングの床に広がった鮮血まじりの水に、ゆっくりと屈み指先を浸す。



「若気の至りさ」



 水によって薄められた鮮血が、淡く光を発した。



「――」
「―――!!」



 階下からの怒声も、今は取るに足らないものだと思えるのは、流れたときの長さだろうか。



「いい加減黙れ」



 放たれた言葉にははっきりとした力が込められていた。



「お見事」



 騒がしかった家に静寂が落ちる。














 開いてはいけないよ。



 火の海となりつつある住み慣れた家。足音のない男たち。
 目前にまで迫る死の腕[カイナ]から、私はどうすれば逃げおおせる事が出来る?



 開いてはいけないよ。



 何もしなければ背後の足音――もしくは目前の炎――が確実に私の命を奪うだろう。
 けれどそう易々と殺されてやるわけにもいかない。



 ――呼べよ。



 だって、そう。



「アッシュ」



 私の命は私だけのもの。



「アッシュ・オフィーリア」



 なら奴らにくれてやる事なんてない。



「あいつ等を消しなさい!」



 そうでしょう?



「――仰せのままに」



 私の悪魔。



































「いいかい? アリア、決してその本を開いてはいけないよ」
「でも手放してもいけないんでしょ? 父さん」



 幼い両腕で抱いた、血の様に紅い装丁の本。
 父さんは言った。「それは禁書だからね」と、「それには恐ろしい悪魔が封じられているから」と。



「大丈夫、わかってるよ」



 でもね、父さん。父さんは知らなかったでしょう?



「私は絶対にこの本を手放さないし、開いたりもしない」



 とっくの昔に封印はとけていたのよ。



「そんなに心配しなくても大丈夫」



 だけど私は嘘をついたの。



「大丈夫だよ」



 私の悪魔を誰にも奪われたくなかったから。
「行け!」



 大地が唐突に光を放つのと、男が肩に止まった銀の不死鳥を空へと逃がすのとは、ほぼ同時だった。
 飛び立った銀の不死鳥は迷う事無く光から逃れるように、遥か上空へと舞い上がる。



「俺も間抜けだな」



 光が転じた鎖に手足を絡め取られ、膝をつかされた男は自嘲しながら目を閉じた。



「だが、これで終わりだと思うな?」



 闇が爆発する。



「人ごときが」



































「アリア」



 約束だよ。



「決してあの本を読んではいけない」



































「アバダ ケダブラ!」



































 暗転。














「絶対籠から出るなよ?」



 梟用の籠で窮屈そうに身じろぐスノゥにそう釘をさし、籠の上から目晦ましの魔法をかけた。



「見つかったら見捨てるからな」



 犯罪者はごめんだ。



「シフ」
「・・大丈夫だって、もし本当に見つかったら見た奴全員の記憶を抜いて籠に鍵をかける。それで文句ないだろ?」



 だからその非難がましい目はやめろ。



「スノゥにはかけられないの?」



 ・・・その手があったか。



「試してみるか?」
「――試す?」
「アイスドラゴンなんて生き物に試した事ないからな、案外やってみると面白い事になったりして」
「・・・貸して」



 冗談だって。
ちょっと書き直したセピアの1話
今サイトにある文とけっこう内容違います

女主:イヴ・リース
男主:イスラ・フィール
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