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小噺専用
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 するりと闇から滑り落ちる。
 いとも容易く《不死鳥の騎士団》本部への侵入を果たした。レイチェルは、けれど思いも寄らない人物との邂逅を果たすこととなる。

「レイチェル。おぬし…」
「よう。クソジジイ」

 十数年振りの再会。
 何でもないような顔をして、杖を取り出そうとするでもない。――レイチェルにとってそんなものが何の意味も持たないことをダンブルドアは知っていた。

「最近はまた随分と忙しくしてるみたいだな」

 その認識を肯定するよう、何気なく広げた手の平を揺らし。目当てのものを呼び寄せる。
 粒の小さいエメラルドによって装飾を施されたロケット。金色の。描かれた紋章は蛇。

「何をする気じゃ」

 同時に逆の手で指を弾き鳴らし、何事か囁いた。レイチェルは愛想良くにこりと笑い、ロケットを揺らめかせて見せる。

「あんたは俺達のことなんてなーんにも分かっちゃいなかった。だけど特別に一つだけ分からせてやるよ」

 その姿は足元から滲むよう消えていく。

「俺はヴォルデモートを殺したいんだ」

 後には何も、気配一つ残らなかった。
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 《姿くらまし》は必ずリドルと一緒でなければいけない。絶対に。そうでなければどこへも行けはしなかった。私は。私が私であることさえ保てない。不完全な存在だから。
 二人でようやく一人分の魂。

「ねぇ、リドル」

 指輪はただの証でしかなかった。

「楽しいわね」

 そして本当は、私の魂なんてほんのささやかにしか存在しない。私の「生」を支える魂は、その全てと言っていい程がリドルの持ち込んだ、リドルの魂。つまりトム・マールヴォロ・リドルの。

「楽しくて仕方ないわ」

 己の魂を割いてまで永遠を手に入れようとした愚か者。ヴォルデモート卿の魂で、私は生きている。だから生かさなければならなかった。まだ生まれてもいない私自身を。リドルの手を借りて。

「さぁ、行きましょ」

 ハリーにつけた《目印》の反応はとうにホグワーツを離れていた。
 私の前に実体として立っていたリドルは姿を消し、指輪の中へと戻る、ずるずると侵されていく感覚へ逆らわずにいると、身体の支配はあっという間にリドルの下へ渡って行った。

「リドルの館へ」
「(呪いをかけに!)」

 私の声。私の身体。私の魔力でリドルは望みを唱える。サラが特別に許してくれたから。私たちの《姿くらまし》がホグワーツのまもりに妨げられるようなことはなかった。
 バシッ、と音を立てて芝地へ降り立つ。柔らかな着地。
 何気なく持ち上げた杖先から飛び出す閃光は、いとも容易く裏切り者の意識を奪った。不審な音に振り返る暇さえ与えない。
 どさりと倒れ込んだ尻目に大鍋へと近付く。

「父の骨。敵の血」

 鍋の中身は__色をしていた。

「始祖の呪縛、須く繋がれん」

 その中へ持参した薬瓶から銀色の液体をとろりと垂らし、杖を振る。
 立ち上がったペティグリューは意識もないままナイフを構えた。



 そうして、自ら腕を切り落とした痛みによって目を覚ます。命を削るような悲鳴も気にはならなかった。


---


 前触れもなく唐突に、姿を現し杖を振る。ルーラの目的が自分を助けることではないことを、ハリーは何故か初めから強く確信していた。
 思い返してみれば、ルーラが掛け値なくハリーの味方であったことなど一度としてない。なかったのだと、ハリーにはもうわかっていた。そして彼女が「そういう人」なのだということも。

「父の骨。敵の血」

 ワームテールを昏倒させた。ルーラは墓場に場違いな大鍋を覗き込むと、その中へ加えられたものをぴたりと言い当てる。
 懐から取り出された小瓶は無造作に傾けられた。

「始祖の呪縛。須く繋がれん」

 鍋に変化はない。少なくともハリーからはそう見えた。
 ルーラは淡々と儀式を引き継いでいく。



 杖の一振りによって意識を失くし、ぐったりと首を落としたワームテールが立ち上がる。
 取り出されるや否や迷いなく振り下ろされたナイフに、ハリーは目を逸らすことも出来ずその瞬間をまざまざと目撃した。
 切り落とされた腕が、ぼちゃりと鍋へ落ちる。
 ワームテールは絶叫と共に覚醒し、地面をのた打ち回った。

「――オブリビエイト」

 鋭い忘却術が蛇を撃つ。
 半歩下がって、ルーラはくるりと姿を消した。


---


 言うべきか、言わざるべきか。迷った末にハリーはダンブルドアへ打ち明けた。

「ワームテールが僕の血を奪って鍋に入れたすぐあと、ルーラが現れたんです」
「なんじゃと?」
「ワームテールはすぐに失神させられて、ルーラの姿を見た蛇は忘却呪文をかけられました。ヴォルデモートも、彼女が現れたことには気付いてません」
「ルーラはそこで何かしたのかね?」
「はい。鍋に何か入れていました。銀色の液体です。それから…」

 ハリーにはシリウスがこれまでとは別の憤りにかられていることが分かった。

「ワームテールに自分の手を切り落とさせて、いなくなりました。その後すぐにヴォルデモートが復活したんです」
「あいつなら阻止することができた!!」

 シリウスの言葉にははっきりと同意することができる。けれどハリーは、シリウスと同じようにルーラへ怒りを覚えることができないでいた。

「でもあれは、本当はルーラじゃなかったのかも」

 一目見てルーラだと思った。なのに今となっては分からない。

「…どういうことじゃ?」

 あの時トム・リドルの墓の前で目撃した少女は本当にルーラだったのだろうかと、ハリーは自分を疑っていた。

「赤かったんです」

 最後までハリーを見ることのなかった瞳。月のない夜に似て黒い目をしたルーラとは、あまりにかけ離れて似合い過ぎた色。

「あの時。僕が見た人はルーラにそっくりだったけど、赤い目をしていました。――まるでヴォルデモートのような」

 まるで取り憑かれてしまったかのように。

 ホグワーツから新しい教科書リストが届いていた。

「うぇ…?」

 ロックハートロックハートロックハート! ――お固い教科書にしては洒落のきいたタイトルが並んでいる。

「新しい防衛術の教師って魔女なのかな…」
「まぁ、ロックハートの熱狂的なファンではありそうだよね」
「暇潰しならいいけど教科書にはならなくない? ロックハートって」
「宣教師」
「布教活動!」

 まさかでしょうと、否定しながら面白がってくすくす笑う。


---


「今日の予定は?」
「ごろごろする」
「最近ずっとそうだね」
「ホグワーツで活動的にしたせいか反動きちゃって」
「それにしたってだらだらしすぎだよ。少しくらい出かけたら?」
「どこに?」
「どこでもいいよ。――どこに行きたい?」
「んー…――あ、」

「イタリア行きたい!」

「…極端すぎ」


(でも連れて行ってくれる子守)

---


「ヒキガエルが温めた鶏の卵って絶対バジリスクになるの?」
「蛇はサラの方が詳しいよ」
「サラに聞くほど気になってない」
「聞いてきなよ。喜ぶよ」
「行かないってば」


---


 早く大人にならないと。子供では愛してもらえない。
 ずっと子供のままでいたい。大人になったら愛されない。


---


 夜の散歩をすっぱりやめて、ルーラは寝ていることが多くなった。気付けば所構わず目を閉じている。夜はアリアより早く寝るようになったし、朝はいつまでも眠そうにしていた。


---


 夏休みが始まってすぐ。驚くほど何もする気にならない自分に気付いた。部屋に篭もりっきりなのはいつものことだけど。本を開いてもその内容が、まるきり頭に入ってこなくなった。だからひたすら、ごろごろごろごろしっぱなし。ほとんど一日中、ベッドの上で微睡んでいるような状態。

「ルーラ」

 リドルは時々現れて


---


 パーセルマウスであるということは、全然「特別」なんかじゃない。我が家は全員蛇語を話せるし。それ自体、覚えようと思って覚えられないものじゃない。

「 こっちに来い! 」

 だんっ、と手荒く舞台を叩いて叫ぶと、蛇は弾かれたようこちらを振り向いた。そしてすぐさま、私の言葉の通りに動く。
 当然だ。

「お遊びが過ぎるわよ、マルフォイ」

 パーセルタングはそういう「力」。

「――滑稽な話ですわね」

「ヴォルデモート卿。あなたともあろう人が本当にお分かりになりませんの?」

「その石はもう空っぽですわ。――わたくしが、一足先に頂いてしまいました」


「お父様は、あなたのことを快く思われておりません。わたくしは場合によって、あなたの殺害を許可されていますの」
「許可だと…」
「全ての欠片を打ち砕き、魂までも焼き尽くすということですわ」


「わたくしが見かけ通りの無力な子供でないということを、どうかお忘れなく」



「――アリア」
「はい?」
「どこか行ってたの?」
「えぇ」
「…そう」

「ルーラ」

「今日はもう遅いので、明日になったらお話ししますわ。わたくし、とても面白いものを見てきましたの」

「今日の真夜中。__で、面白ものが見られるかもしれませんわ」

 アリアはどうしてああも情報通なのか。何も分かってないような顔をして、その実なんでも知っている。

「面白いもの?」
「えぇ」

 そんなふうに言われたら、どうしたって行ってみたくなってしまう。



 よもやバレていないとも思っていない



 くるくるくるくる。円を描くよう動かされていた杖先が、ぴたりと狙いを定める。

「来たみたいだよ」

 持ち上げられた杖の動きに合わせて、するするとマントが落ちた。

「こんばんは、ハリー」
「どうして君が…」

 見えない内側へ隠れていたのはハリー一人ではなかった。

「ルーラ・シルバーストーン?」
「…どうも。ハーマイオニー・グレンジャー」
「どうしてあなたがここに?」
「物見」
「説明になってないわ!」

「マルフォイが本当のことを言っているのだとしたら、見られると思ったのよ。ドラゴンのためならちょっと足の上まで脚を伸ばすくらいどうってことないわ」
「その人は?」
「湯たんぽ」

「ハリーが便利なマントを持ってることは知ってたから、念のためよ。見つけられなかった間抜けじゃない」

「ほら、やっぱり。歓迎されないって言っただろ」
「そーみたい。お目当てのドラゴンは箱詰めだし…もう帰るわ。おやすみ、ハリー。ミス・グレンジャーも」


「見られてよかったの?」
「上級生だとでも思うさ」
「リドルみたいなの、ちょっと調べたらいないって分かっちゃうわよ」
「心配?」
「ぜんぜん」


「ドラゴンはどうでした?」
「箱詰めよ」
「あらあら」
「君はもう誰と行くか決めてるの?」
「…いいえ?」

(だんぱ)


---


「どうなさるおつもりですの?」
「別に代表選手じゃなきゃ強制参加ってわけでもないんでしょ」
「あら。勿体無い」

(出る気ゼロ)


---


 通りがかりに目が合って、そのまま放っておくのも素っ気ないから気安くひらりと手を振ってみる。
 ハリーは反射のような動きで手を振り返しかけ、はたと動きを止めた。
 さっと周囲の様子を確かめてから、足早に距離を詰めてくる。

「どうかした?」
「もしよかったらでいいんだけど…」

 指輪が冷えた。

「僕と一緒にダンスパーティーに出てくれないかな」
「いいわよ」
「――えっ?」
「まだ誰とも約束してないから大丈夫」

(この変わり身の早さである)


---


「――ルーラ?」
「あぁ、アリア。私ハリーと出ることにしたから。ダンパ」
「あら。ではわたくしもパートナーを探さなければいけませんわね」
「別にいなくてもいいと思うけど。――じゃあまたね、ハリー」

(いもづる)
 ツートンカラーの十字架。普段は首から下げているペンダントトップは今だけ手の中にある。

「(――ルーラ)」

 しゃらしゃらと余る鎖で手首に巻きつけて。

「やめろ!!」

 やるべき事は分かっていた。

「アクシオ」

 振り上げた杖はバジリスクの毒牙から《日記》を救った。


---


「トム・マールヴォロ・リドル」

 にっこり笑って、突き出す短剣に刃はなかった。

「あなた目障りだわ」


---


「御託はいいよ」

 バシッ、と弾けた音に衝撃が重なった。

「時間の無駄だ」

 使えるはずのない魔法。冷ややかに向けられた視線は鮮やかな紅色。
 《記憶》は戦慄した。

「お前は…!」

 ローブから見え隠れする手には赤く濡れた短剣。

「終わりにしよう」

 ぽたぽたと滴り落ちる液体は瞳と同じ色をしていた。


---


 突き立てた刃の中へ流れ込んでくるものがあった。吸収される、と言い変えてもいい。刺さるはずのない《石》の刃はほとんど実体を得ていた《記憶》の胸を違わず貫き、オリハルコンの柄は歪な魂を喰らい尽くさんばかり。呑み込んで、閉じ込めた。
 それでおしまい。
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