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小噺専用
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「カノン」



 背後からかけられた声にカノンは立ち止まることもせず、目の前に立ちはだかる扉を押し開けた。
 廊下の向こうから駆けて来たルシアはその扉が閉ざされる前に慌てて室内へと滑り込み、片手の鞄を床に下ろす。



「カノン、いい加減機嫌直せよ」
「不機嫌なわけじゃない」
「思いっきり不機嫌だろ、今」
「違う」



 チェストの上に置かれていた電話のコードを勢いつけて引き千切り、無駄に大きい窓にカーテンを引き、カノンは脱いだコートをソファーに投げつけた。



「不愉快なだけだ」



 そして一言吐き捨ててバスルームへと消える。



「だから、不愉快で不機嫌なんだろ?」



 一時[ヒトトキ]の静寂が落ちた室内でルシアが呆れたように溜息をついた。
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 微かな音を耳に留めカノンは立ち止まった。
 その音は本当に小さくて、こんな鬱蒼とした森の中では風の音に掻き消されてしまうはずなのに、何故が聞こえた。



「・・・」



 大木の根元に、一匹の狼。
 傷ついた体からはとめどなく血が流れ出していて、誰が見てももう助からない事は一目瞭然だった。
 カノンが近付いても、身動ぎ一つしない。



「仲間はいないの?」



 それとも、仲間にやられた?
 カノンの問いかけに傷ついた狼は答えなかった。
 ただ気だるそうに瞼を上げて、緋色の瞳にカノンを映す。



「死が怖くないのね」



 夜明け前の湖の様に澄んだその瞳に、



「生きているくせに」



 そっと伸ばされたカノンの手を、狼は拒まなかった。
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