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小噺専用
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 突然の眩暈。
「っ…」
 傾いた体を支えようと壁に伸ばした手は空を掻き、膝が石床に落ちた。痛みが体を駆け上がり、頭の奥へと喰らいつく。
 痛みをやり過ごそうときつく閉じていた目を再び開いた時、そこはもう見慣れたホグワーツの廊下ではなかった。
「――ッ!」
 声にならなかった悲鳴が頭を揺らす。ガンガンと、頭を鈍器で殴りつけられているような痛みが正常な思考を殺した。
 薄暗い室内、窓から見える半円の月、月光の中横たわる、――私。
「どう、して……」
 急かすように早まる心臓の鼓動が耳の奥で叫ぶ。あれは私、ルーラが捨てた、本当の……

「 シ ニ タ イ 」

「いや…」
「死にたいの」
「違う…」
「私は死にたいのよ」
「そんなことないっ」
 胸が張り裂けそうだった。目の前にある光景を追い出そうと目を閉じれば、瞼の裏に抉られた手首が浮かぶ。自分自身の肉を抉る感触、痛みを、私は今でも憶えてる。忘れられるわけがない。
「り…どる……リドル」
 縋るように抱きしめた指輪は確かな温もりをくれるのに、同時に触れた私の手は氷のように冷たかった。これでは、まるで……まるで?
「違う、違う違う違うっ、私は死んでない! 死ななかったの! 私は、助けられたのよ……」
 不意に頭をよぎった思考を振り払うよう頭[カブリ]を振っても、私を取り巻く過去は消えない。唯一の拠り所である指輪の温もりさえ遠のいていくような気がして、私は、ただひたすらにその名を口にした。まるで他に言葉を知らない幼子のように。私が唯一手に入れた、私だけの絶対の名を。
「リドル…」
 けれど彼が現れることはなかった。
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