昔、子供を養っていたことがある。
小さな男の子。
にこりとも笑わなくて、可愛気の欠片もないけど利口な子。
生きることに強かで、憎たらしいほど賢くて、脆弱な人の子。
食べなければ飢える。
眠らなければ疲れる。
寒ければ凍えて、暑ければバテる。
そんな、どこにでもいる当たり前の子供だ。
あれはいったい、いつのことだったか。
「エカルラート」
あの頃はもっと違う名前で呼ばれていた。
そんな回顧。
なんでもないような顔をして、声のした方を振り返る。
「どっちがいい?」
声をかけてきたのは、見慣れた連れ。
まっすぐに長く伸ばした黒髪を結うこともせず、すとん、と腰まで落とした女性。
凛とした立ち姿がいたく様になっていて、私はついつい笑みを浮かべてしまいながら、差し出された右手の先へと目を向ける。
どっちがいい?
そう言って差し出されたのは、白くて丸い二枚のプレート。
プレートにはそれぞれ黒字で「96」「97」と数字が刻印されている。
前者はいかにも、それを差し出してくる彼女のために誂えられたような数だ。
「こっち」
そういう意味で、私に似合いの番号とは「46」だろう。
迷うことなく後者をとった。
彼女が「黒」で、私が「白」。
そういうコンビだ。
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