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 レイチェルがはっと息を呑む音がはっきり聞こえた。
「リドルおま「レイチェル」…っ」
 彼女の怒りに満ちた声はルーラによって遮られる。立ち上がりかけていたレイチェルは、荒々しくソファーに沈んだ。
「……」
「大人気ないぞ、レイチェル」
「…何でそうなった」
 不貞腐れきった顔をしてそっぽを向いていたレイチェルの視線が、もう一度ルーラと、彼女を支えるリドルへと向けられる。
 ルーラは少し先の床を見つめていた。
「大丈夫よ」
「俺は! …そんな言葉が、聞きたいんじゃない…」
「本当に平気だから、気にしないで? …リドル、戻ろう」
「…つかまって」
 レイチェルのドロドロとした感情が空気を震わせる。ルーラとリドルが姿を消し、二人きりになった部屋の居心地の悪さにサラザールは顔を顰めた。
「放っておけ」
「…お前は大丈夫だっていったじゃないか、サラ。あの部屋に入れば、かけられた呪いはすぐ、に…」
 暖炉を見つめていた視線が徐々に見開かれ、やがて驚愕に染められた瞳がサラザールに向けられる。
 呆れをにじませた表情で小さく頷き、サラザールは交わった視線を逸らした。
「気付いたなら、どうすればいいかわかるな?」
「……」
「あいつらの問題だ。私たちがしてやれることはない」
「……もう寝る」
「あぁ、おやすみ」
 交わらない視線、虚ろな瞳を見て痛々しいと、なんとかしてやりたいと思ったのはレイチェルだけではない。けれど、何もしてやれることはないのだ。
「…私もお前も、まだ、無力なのさ」
 その原因が魔法ではないのなら尚更。
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