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「こんな話を知っているか?」

 自慢の銀髪を夜風に揺らしながら、女は口を開いた。長い間続いていた静寂の時間が途切れると、ぴたり、どこからか聞こえていたピアノの旋律も途切れ、女を取り巻くありとあらゆるものが沈黙する。

「世界中の災厄を閉じ込めた「匣」の話だ」

 話し始めると、女は髪よりも強い輝きを放つ瞳を楽しげに細め、唇を笑みの形に歪めた。

「その匣は気の遠くなるほど昔作られたものでな? 閉じ込められた災厄は「パンドラ」と呼ばれ、一度匣から解き放たれたパンドラは、美しい女の姿をとるそうだ」

 掲げられた両の手は、慈しむように夜をなぞる。

「面白いと思わないか?」

 女は、嗤った。

「面白いと思うだろう?」

 世界中の誰よりも美しく、何よりも輝かしく、そして残忍に。

「だから欲しくなった」

 女は嗤って、月のない漆黒の夜へと両手を広げた。

「どこにあるのかなぁ」

 その指先がはらはらと、夜に解けていく。

「パンドラの、匣は」

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