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「あの部屋には何重に魔法をかけた?」

 床に刻み込まれた魔法陣を弄っていたリーヴは不意に作業の手を止めて、遅めの朝食にありついていた私に目を向ける。

「あの部屋って…どの部屋?」

 私はリーヴと僅かに発光する魔法陣、手元のパンを順番に見て、零れそうになった蜂蜜を慌てて舐め上げた。独特の甘さが口の中でパンの甘さと混ざりあう。

「王城でお前に与えられていた部屋だ。西の塔にある」

 やっぱり苺ジャムにすればよかった。

「…実験も兼ねてだいぶ重ねがけしたから憶えてない。――あの部屋がどうかした?」
「少なくとも対人の魔法は施していないな」
「それは、まぁ…」
「わかった」

 王城の中で対人の魔法を仕掛けるわけにもいかないでしょうと、最もな言葉は最後のパンと一緒に呑み込んだ。そんなことは、リーヴにだって分かっているはずだから。

「――――」

 幾つかの魔法を矢継ぎ早に紡ぎ上げ、リーヴは床の魔法陣に翳していた手を握る。魔法陣から蜃気楼のように立ち昇っていた淡い光はぱっと霧散して、その残滓は部屋中に広がった。体感温度が少し下がって、私は椅子の上で膝を抱える。

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