さらさら、
「・・・」
さらさらと、
「―――」
流れ落ちていく。
「―――」
紡ぐ言葉は音にはならず、
「――」
小さな震えが、世界を揺らした。
「・・・」
「朔魅[サクミ]?」
渡り廊下の途中、立ち止まってしまった友を振り返り鶫[ツグミ]もまた歩みを止める。
屋根のないここは少し風が強い。項[ウナジ]の辺りで束ねたきりその先を風に遊ばせながら、自分ではなく風上を見つめている朔魅に、鶫は肩にかからない己の髪をそっと押さえた。
「どした?」
「・・・」
つ、と伸ばされた腕。
「朔魅?」
奇妙な感覚に襲われ鶫は一歩踏み出した。
消えてしまう。こんな学園のど真ん中で何を、と思うかもしれないが、鶫は確かにそう感じ、そして――
「ッ、」
確かに見た。
「朔魅!」
吹き付ける風に手を伸ばし、滅多に動くことの表情を緩め、微笑む友を。その友が消える瞬間を。
「――」
何事か呟いた朔魅の姿は、霞のように消えうせる。
後一歩、思わず駆け出していた鶫の手が空[クウ]を掻き、朔魅の手にあったはずの鞄がドサリと、音を立てて冷たいコンクリートの上に落ちた。
「嘘だろ・・」
自分以外誰もいない渡り廊下で、鶫は呆然と零す。
消えてしまった。――この、人と人でない者がともに学ぶ学び舎で、そうする事の出来る力を持たない者が。
「――どうなってんだよ」
クシャリと顔を歪め、足元の鞄を拾い上げると鶫は駆け出した。
「クソッタレがっ!!」
そんなこと、あっていいはずがないんだ。
PR
Comment
コメントの修正にはpasswordが必要です。任意の英数字を入力して下さい。
カテゴリー
最新記事
(08/25)
(08/04)
(07/28)
(07/28)
(07/14)
(07/13)
(06/02)
カウンタ
検索