ゆっくりと暖かい闇の中から持ち上がる。
淡くまどろんだまま目を開け、寝返りを打ち、カーテンの隙間から覗く陽光に気付きティアーユは枕元の時計を見遣った。
「嗚呼、寝過ごしたか」
何年経っても朝から活動を始める生活には慣れないものだと、独り言のようにごちてから気だるい体を起こす。
隣にあったはずの温もりはとうになかった。
「起こさずに行くのは気遣いか、諦めか」
クツクツと楽しげに笑いながら身支度を整える。
どうせ後五分もすれば、呼び出しの電話なりメールなりあるだろう。
「生意気になったものだ」
覗く牙は、彼女の整った容貌を崩すにはあまりに役不足だった。
「パラディック」
何枚もの布が丁寧に重ねられた、絵画の中からそのまま飛び出してきたような衣装を身に纏う少女が一人。
「あら、いらっしゃい」
ラフな格好で開け放った扉に手を付き首を傾げる少年が一人。
「一人なの?」
「生憎ね。でもいつものことさ」
部屋の隅に置かれたソファーにゆったりと座っていた少女――パラディック――はクスリと笑みを零し、読んでいた本に栞を挟んだ。
「夕方の方がよかったかしら?」
「いいよ、別に」
手招けば、スメラギは首を振り片手で襟の端をつまみ持ち上げる。
嗚呼、そうね。と、わざとらしくパラディックは微笑んだ。
「ただ〝気をつけて〟って言おうと思ったの。ごめんなさいね、呼び出して」
「気をつけて? 何を、また」
胡乱気に眉を寄せ、スメラギは彷徨わせていた視線を戻す。
「ただそれだけなのよ、本当に」
曇りのない笑顔からは何も読み取れはしなかった。
「・・・わかった。気をつけるよ」
「えぇ、ティアーユによろしく」
「うん」
まだ、誰も知らなくていい。
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