「嗚呼、時間だ」
聞き飽きた電子音に気付き顔を上げたティアーユに、それまで黙々と手を動かしていた少年は頷いた。
「ちょうどいいですよ、こっちも大方終わりです」
少年――戸川原 和宮[トガワハラ カズミヤ]――は持っていた筆を水差しに放り、パレットを床に置く。
「そうか? 出来たらちゃんと見せてくれよ? 和宮」
「わかってますって、見せてるじゃないですか、毎回」
長いこと窓枠に座り外を眺めていたティアーユは立ち上がり、椅子にかけていた上着からストラップをつかみ携帯を引きずり出すと、軽く目を瞠り、そして微笑んだ。
「?」
「クリスがな、午後から暇を貰って息子とショッピングにでも行こうと思った副社長が、肝心な息子と連絡が取れないと騒いで困っているそうだ」
「げっ」
「携帯の電源くらい入れておけよ? 和、いくら絵に集中したいからといっても」
楽しげに言うティアーユとは違い、探し当てた携帯のディスプレイに並ぶ着信履歴を目の当たりにした和宮は蒼白だ。
慌てて弁解の電話をしたいところだが一番古い履歴は2時間も前――つまりスメラギからの呼び出しもなく暇を持て余したティアーユがふらりとここを訪れてすぐ――なので、母の怒り具合を考えるとそれも気が引ける。嗚呼、でも今電話しないときっと後で酷い。しばらく家に入れてもらえないかもしれない。
「ほら、行くぞ」
両手で携帯を握り締めたまま動かない和宮に声をかけ、ティアーユは壁にかけてある部屋の鍵を手に取った。
「え?」
「ナイン・ヤードの本社まで連れて行ってやる。――なんなら言い訳に使ってくれてもいいぞ」
「マジですか」
「お前の母親は怒ると怖い。それに、今日は暇だからな」
ほら、急がないと状況は悪化するぞ。
扉の向こうへ姿を消したティアーユを、和宮は慌てて追いかけた。
聞き飽きた電子音に気付き顔を上げたティアーユに、それまで黙々と手を動かしていた少年は頷いた。
「ちょうどいいですよ、こっちも大方終わりです」
少年――戸川原 和宮[トガワハラ カズミヤ]――は持っていた筆を水差しに放り、パレットを床に置く。
「そうか? 出来たらちゃんと見せてくれよ? 和宮」
「わかってますって、見せてるじゃないですか、毎回」
長いこと窓枠に座り外を眺めていたティアーユは立ち上がり、椅子にかけていた上着からストラップをつかみ携帯を引きずり出すと、軽く目を瞠り、そして微笑んだ。
「?」
「クリスがな、午後から暇を貰って息子とショッピングにでも行こうと思った副社長が、肝心な息子と連絡が取れないと騒いで困っているそうだ」
「げっ」
「携帯の電源くらい入れておけよ? 和、いくら絵に集中したいからといっても」
楽しげに言うティアーユとは違い、探し当てた携帯のディスプレイに並ぶ着信履歴を目の当たりにした和宮は蒼白だ。
慌てて弁解の電話をしたいところだが一番古い履歴は2時間も前――つまりスメラギからの呼び出しもなく暇を持て余したティアーユがふらりとここを訪れてすぐ――なので、母の怒り具合を考えるとそれも気が引ける。嗚呼、でも今電話しないときっと後で酷い。しばらく家に入れてもらえないかもしれない。
「ほら、行くぞ」
両手で携帯を握り締めたまま動かない和宮に声をかけ、ティアーユは壁にかけてある部屋の鍵を手に取った。
「え?」
「ナイン・ヤードの本社まで連れて行ってやる。――なんなら言い訳に使ってくれてもいいぞ」
「マジですか」
「お前の母親は怒ると怖い。それに、今日は暇だからな」
ほら、急がないと状況は悪化するぞ。
扉の向こうへ姿を消したティアーユを、和宮は慌てて追いかけた。
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