「……僕は、」
力の入らなくなった体には既に感覚もなく、視界に入っていなければその存在さえ疑いたくなるほどだ。
「いつかこうなるんじゃないかと思ってたよ」
「そう…」
「わかってたんだ」
乾ききった瞳が今にも泣き出しそうに思えて、私は目尻を下げる。不思議と、表情だけは自由に出来るような気がしていた。
「なら、哀しくないわね」
「君は馬鹿だ。どうしようもない馬鹿だ。…哀しくないわけないじゃないか」
「でも乗り越えられるでしょう?」
「……」
「恭弥なら大丈夫よ」
立ち尽くす貴方に差し伸べようとした手はピクリともせず、最期に触れられないことが酷く寂しかった。出来ることなら貴方の温もりを感じたまま眠りたいなんて、我侭かしら。
「だから私も大丈夫」
貴方のおかげで人として生きる喜びを知った。平凡ではないけど幸せだった毎日の、やはり平凡ではないこの結末に、私は少なからず満足しているの。本当よ。バタフライ・ラッシュとして殺戮と破壊の限りを尽くす日々となんて、比べるまでもないわ。だから、いいの。早すぎるなんてことはない。十分すぎるほどに、私は幸せだった。そしてこれからも。
「おやすみなさい」
貴方と過ごした日々は、けして偽りではなかったのだから。
PR
カテゴリー
最新記事
(08/25)
(08/04)
(07/28)
(07/28)
(07/14)
(07/13)
(06/02)
カウンタ
検索