床に刻んだ魔法陣を弄っていたリーヴが何気なく手を伸ばし、次元の挟間から何かを取り出す。
取り出された《何か》が私宛の《手紙》であることに気付いたのは、そこに覚えのある魔力を見つけてからだ。手紙の表面を覆う魔法は所々破損していて、リーヴは視線だけで私にどうするか問う。
「……」
私は無言のまま杖も持たない右手を振り上げた。腕の動きに合わせて放たれた魔力は綺麗に手紙だけを真っ二つにして、持っていたリーヴの手には傷一つない。
「いいのか?」
「どうせあのエルフのことよ」
小首を傾げたリーヴは私を指差しておかしそうに笑った。
「そうじゃない」
気付いた時にはもう手遅れ。
「――うそ…」
目には見えない魔力の《鎖》が私の腕を引いた。窓際のソファーから引きずられるように立ち上がると、そのまま倒れそうになった体をリーヴが支える。
「迂闊だったな」
「笑い事じゃない! 何で言わなかったの!?」
「聞かなかったろ」
「教えてくれるって思ってたからよ!」
鎖は手紙が消滅した場所へと続き、そこからどこか別の空間へと繋がっていた。多分その先にいるのは手紙を寄こした蒼燈とあのエルフで、そこにあるのは《厄介事》。
「手間が省けるからな」
「えっ?」
「どうせあのエルフには用があった」
「っ…やっぱりわざと黙ってたんじゃない!!」
もう一度小首を傾げたリーヴは私から手を放し、私は自分の体が意思に反して強制的に転移させられるのを感じた。
「大丈夫」
何が大丈夫だっていうのよ。
「――まさか成功するとは思いませんでした」
「あんたの魔法に引っかかったわけじゃないわよ」
無造作に放り出された体を魔力で支える。確認しなくてもそこが《私の部屋》であることは空気でわかった。王城の中にありながら、この部屋からは王城に作用する一切の魔法が排除されている。
「というと?」
「身内の裏切り」
けれどそれが完全ではなく、理由を探して気配を探ると、私と私に許されたものだけの出入りを許すよう設定されていた魔法錠は、王の名の下に歪められていた。
「ここにいろって言ったのは陛下ね」
「はい。…自分の部屋を除けばここが一番安全だろうから、と」
確信のもと問えば案の定蒼燈は頷いて、私は苛立ちも露に舌打ちする。
「鍵が壊れてれば同じことよ」
取り出した杖で扉を示し《鍵》を構成する魔法陣を取り出してみれば、幾つもの破損が目に付いた。
「あれで壊れてるんですか?」
僅かだけど陣自体も歪んでいる。
「私に言わせれば穴だらけ」
鍵として使うためだけなら、この程度の破損は問題ない。でも《守り》としては、もう使い物にならないくらいにボロボロだった。こうなったらむしろ地道な修正よりも再構築した方が早い。
「――リーヴ!」
天井にある巨大な魔法陣に向けて叫ぶと、魔法陣の所々に青白い光が灯った。光はすぐに中央の円へと集まり、その中から何食わぬ顔でリーヴが現れる。
「まだ怒ってるのか」
「わかってるならご機嫌とったら」
「……」
棘のある言葉にリーヴは無言で取り出された陣へと目を向けた。鍵は私の手を離れ、再構築されると共に本来の位置へと戻される。
「これでいいか?」
「とりあえずは」
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