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「制服でもないのに行ける訳ない。目立つの嫌い」



 その一言でリボーンの誘いを蹴り、リナは屋上を後にする三人を見送った。



「で、何してるの」



 背後には赤ん坊サイズの足場を用意する殺し屋。



「準備だ」



 答えになってない。零しかけた言葉を呑み込み壁を背に腰を下ろした。



「お前も来るか?」



 答えも待たず足場を下ろし始めたリボーンに、リナは軽く目を細め再び立ち上がる。



「見てる」
「そうか」



 肘を突いたフェンスに体重をかけ下を覗き込めば、三階の辺りで足場が止まるのが見えた。



「死ね」



 銃声。
 引き金を引いてすぐリボーンは足場から窓に飛び移り、リナの視界から消え失せる。
 オートで戻ってきた足場を胡乱気に見遣りリナは呟いた。



「どうせ行かないと見えないんじゃん」



 それでも気配を窺うことは怠らない。



「でも行くと雲雀に怒られるかな?」



 不思議とマンションを出るまでの倦怠感は消えていた。
 ねぇエキドナ? 微笑と共に音もなく問えば片割れが苦笑したような感じもする。



「気のせいか・・」



 エキドナが応えなかったのは血を流しすぎて疲れていたから。そう結論付けて、リナは屋上を後にした。



「そうだよね、私達に限って」



 背後で聞こえた爆発音は、取り合えず聞かなかった事にする。






























「おかえり恭弥」



 聞こえたのは微かな扉の開閉音だけだった。



「今日来てたよね」



 それでも帰って来たのが〝彼〟であると確信を持って声をかけ、返ってきた言葉にエキドナは苦笑した。



「ただいまとか言えよ」
「ただいま」



 リビングのソファーに座ったまま仰け反るように仰ぎ見ていると、体温の低い指先が無防備な首筋をなぞる。



「それで? 何しに来てたの、僕に会いもせず」
「知り合いに挨拶を」
「知り合いって、」
「静馬[シズマ]じゃないぞ? 私の、仕事の知り合いだ」
「あの赤ん坊?」
「ビンゴ」



 伸ばした人差し指を雲雀の額に向けエキドナは「Bang.」と腕を跳ね上げた。
 リナの愛銃、「ロストエンジェル」の入ったホルスターはテーブルの上に投げ出されている。



「腕だけはいいヒットマン」
「ふーん」



 けれど続く言葉には興味なさ気な返事を返し雲雀はリビングを後にした。



「なんだ、つまらない」



 持ち上げていた腕を落とし、ソファーの背もたれを滑り落ちるとエキドナは頬にかかる髪を除け目を閉じる。



「なぁ? リナ」










 次の瞬間そこに彼女はいなかった。










「傷は?」



 かけられた言葉にリナは薄っすらと目を開け視線を上げる。



「元々そんなに酷いのなかったから、大丈夫」



 放った言葉は紛れもない真実で、現にもう目に見えるような傷は残っていない。あの時倒れたのはただの貧血。
 それも暫く休めば自然と治ってしまうもので、ただ、あのままあそこにいたらと思うとぞっとした。



「次は気をつけなよ」
「うん」



 それでもいいと思ったのは確か。けれどそれを否定する心もある。
 ここにいれてよかったと思う私と、早く離れなければと思う私。そして、



「何考えてるの」



 逃げられる「今」は終わってしまったのだと、納得する私が鬩[セメ]ぎ合う。
 いつの間にかソファーの前へと回って来た雲雀の為に起き上がり、彼のためのスペースを空けるとリナは欠伸を噛み締めた。



「何って?」
「・・余計な事は考えなくていいよ」



 体を支えていた右腕を掬われ、倒れこんだのはそれを意図した人の膝の上。



「君は僕のものだ」



 柔らかな口付けと共に落とされた言葉にリナは綻ぶように笑った。



「そうだね、」



 もう随分と切っていない黒髪を梳かれながら、その心地良さと押し寄せてきた眠りに身を任せ目を閉じる。



「雲雀がいればいいや」



 顔を押し付けた薄い腹から聞こえる鼓動がさらに睡魔を引き寄せた。









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