何も考えなくとも出来るはずの、〝立ち上がる〟という動作に失敗した。
「っ――」
強かに打ちつけた腰を押さえ、道連れにしたブランケットと共に縮こまり舌打ち一つ。
こんな時呆れ顔で助け起こしてくれるはずの幼馴染は、時間も時間なだけに学校へ行ってしまい不在。
「最低・・」
自分はただカーテンを開けたかっただけなのに。
「ねぇエキドナ、カーテン開けて」
起きる気力もなくし、フローリングの床で丸まったままリナは独り言の様に呟いた。
「エキドナ・・?」
けれどそれに返るはずの声がない。
「ねぇエキドナ、聞いてる?」
感じるのは不安か、焦燥か、はたまたその両方か。
「ふざけないでよ・・」
届かない呼びかけは思いがけず固かった。
「何だお前。並盛の生徒ではないな」
「煩い」
銃声。
「ちゃおっス」
不機嫌さを隠そうともせず引き金を引き、立ちふさがる男共を片付けるとリナは愛銃をホルスターへと戻す。
「・・・ボンゴレの・・」
生憎実弾の手持ちはなかった。
「リボーンだ。いい加減憶えろ」
「・・必要性を感じない」
「相変わらずだな、お前」
「餓鬼と親しくなった覚えはない」
「でも性格違うぞ」
「・・・・・」
黒いワンピースの上から羽織った同色のシャツを引き寄せリナは顔を顰める。
どうした。と、足下から覗き込んで来るリボーンに一瞥くれ、視線を上げた。
「何してるの」
「家庭教師だ」
「ふぅん」
「お前は仕事か?」
「イレイズの仕事はもうやめた」
ギラつく空を忌々しげに見遣りまた視線を落とす。
「そうか」
「誰の家庭教師」
「ボンゴレの10代目候補だ」
「・・・・顔見たい」
「いいぞ。今ならきっと屋上にいる」
「・・・」
無言で手を差し出してきたリナの肩に飛び乗りリボーンは体を固定する。
年相応に小さな手が羽織ったシャツを握るのを何となく感じながら、数歩の助走の後リナは勢い良く地を蹴った。
「相変わらずすげーな」
大して驚いてもなさそうなリボーンの声はリナに届いたが、リナが途中で蹴った校舎の壁が立てたはずの音はリボーンに届かない。
「どれ」
「ちょっと待ってろ」
音もなくフェンスの上に降り立ったリナの肩から飛び降り、リボーンは談笑する三人組に近付いて行った。
「夏休みもあっという間に終わって何かさみしーなー」
「補習ばっかだったしな」
「アホ牛がブドウブドウって最近ウザくねースか?」
「栗もうまいぞ」
「・・・あれか」
まずリボーンがちょっかいを出した少年の顔を憶え、ついでに他の二人も紹介させようとリナはフェンスを降りる。
「リボーン」
「何だ、来たのか」
「どちら様・・?」
まず声を上げたのはボンゴレの10代目。
「リナ」
「別名〝孤高のイレイザー〟。俺たちと同じ殺し屋だ」
「えぇっ!?」
「・・・知ってるぜ」
次に声を上げたのは、――嗚呼、あの顔は知っている。
「スモーキン・ボム」
「孤高のイレイザー。確か一夜にして当時アメリカで最も力のあるファミリーを壊滅に至らしめた・・バケモノだ」
「口の利き方を親に習わなかったの? 貴方リボーンよりクソ餓鬼ね」
「なんだとっ!?」
「ご、獄寺君・・!」
「よせ」
今にもリナに攻撃を仕掛けようとする獄寺 隼人に銃を向け、それ制したのはリボーンだ。
「なんだ、つまらない」
抑揚のない声で愛銃にかけていた手を放すと、リナは最後の一人に視線を向ける。
「俺は山本 武、よろしくな」
「・・・よろしく」
嗚呼、こいつはまともな人間か。
求められた握手に応えリナは心の中で呟いた。
「じゃあ、私は行くから」
「何だ、来ないのか?」
「一応聞いておくけど、どこに?」
「今からアジトの下見に行くんだ」
まともといっても、ここにいる時点で怪しいが。
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