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 外からの音が完全に遮断された室内に高めの金属音が落ちた。
 それまでの静寂に慣れきっていたリナはその音に顔を顰め体を起こす。

 覗きこんだベッドの下に、鎖の付いた銃弾が転がっていた。



「・・・」



 本来円を描いているはずの鎖はバラバラになり、その役目を果たしていない。
 普段首にかかっている重さを拾い上げ、リナは、どうしたものかと目を細めた。

 生憎、日本へは身一つで来ている。

 つい最近までいたイギリスの家ならルナに頼むなりなんなり、とにかくすぐに修理することも出来たのに。と、そこまで考えてはっとする。



「私は・・」



 もう、あそこに帰るべき場所はない。



「・・・」



 一度硬く握り締めた銀の銃弾を枕元に置きリナは宛がわれた部屋を出た。
 家の中に自分以外の気配はしない。だからもうそう早くない時間なのだと理解して、リビングの壁にかけられた時計を見上げる。



「三時・・」



 雲雀が帰ってくる前に着替えなければと、その時はそんな事を思った。










「しまった」



 持ち上げた愛銃の軽さに舌打ち一つ。
 かけた指を軸にそれを回しホルスターに押し込んだ。
 弾倉は空。ホルスターを吊っているベルトの後ろに付いたポーチは、何も入っていないと言わんばかりに潰れている。
 家を飛び出したときありったけの銃弾を詰め込んだ鞄は日本に入る直前空になり、ついこの間その中に紛れていた殺傷力のないゴム弾も使ってしまった。
 銀の銃弾を使うことは論外。たとえそれが使えたとしても、所詮無きの一発。



「落ち着かない」



 体の軽さに眉を寄せ思わずそう呟いたリナの脳裏を、ふと、よぎる物があった。



「――そうか、」



 どこにでもあるような住宅地にある、なんの変哲も無い一戸建て。



「あるじゃん、あそこに」



 考えるより先に、リナは部屋を飛び出した。






























「・・・・・ここか?」



 マンションを出る前にリナと代わっていたエキドナは、朧な記憶を頼りにたどり着いた家を前に一人呟く。
 ぱっと見違和感は感じないからそうなのだろう。――何の返事も寄越さない裏側のリナに不満を吐くでもなく、コートの内ポケットから白[シラ]んだ鍵を取り出すとそれを鍵穴に差し込んだ。
 ガチャリ。



「ビンゴ」



 確かな手応えと、開いた扉。
 取りあえずリナの弾だな。気付いてしまったが最後体の軽さと、それに伴う心許無さに引きこもってしまった片割れのためにそんな事を思いながら、エキドナは後ろ手に扉を閉めそこを施錠した。
 靴を脱ぐことはせず土足のまま上がりこみ、薄暗い廊下を迷わず進む。
 リビングの扉を通りすぎ、突き当りで左に向き直り、階段の下に作られた不自然なスペースを前に膝を折り軽く床を叩いた。



「秘密基地。だな」



 その空洞音に確信を持って、今度は強く二度。
 叩くというより殴るに近かったそれを受け弾ける様に開いた隠し扉と舞った埃に、エキドナは目を細める。
 開いた扉は50cm四方の正方形。その扉が閉じてしまわないよう片手で押さえながら、終わりの見えない暗闇に迷わず飛び込んだ。



「よっ」



 手の離れた扉が閉じる音が着地から一拍遅れて狭い空間に響く。
 音もなく明かりが灯った。



「フェイク」



 明かりの真下にあるいかにもな鉄の扉を一瞥し、エキドナは左手の壁に向き直るとその左側をゆっくりと押す。
 びくともしない壁に少し力を強めれば、二つ目の隠し扉は漸く道を開けた。

 正面の壁には一面の銃器。右手にはルナの集めた日本刀のコレクション。左手には赤の油性ペンで白々しく「危険」とかかれたこれまた鉄の扉。中央には飾り気の無いテーブルと椅子。










 最後に見たときと寸分変わらない光景がどこか可笑しかった。









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