「もうだめよ」
独り言じみた呟きは、傍にいないアゲハのためのもの。明確な命令を下す必要はなかった。私たちを結ぶ《魔女》の呪いは、代を重ねそれほどまでに強まっている。
《箱入人形劇》の中にいるなら、本当はもう声に出して告げる必要さえなかった。
「皆殺しにしたら合格できなくなっちゃう」
私は順調に塔を下ることができているのに。一人で不合格になるのはそれこそ堪えられないでしょう? ――と、言い聞かせるように笑う。
私だって、そんなことになると困ってしまう。これから先、全ての試験が必ずしも屋内で行われるとも限らないのだから。アゲハの助けは絶対に欠かすことができなかった。
「下で待ってるから。いい子にね」
アゲハの上体が完全に落ち着くのを待って、落とし込まれた迷路の攻略に戻る。《箱入人形劇》で建物の内情を瞬時かつ完璧に把握することのできる私へ与えられた課題が「迷路」だなんて、とんだボーナスステージだった。
仕掛けられている罠の類だって、所詮ハンター試験の受験者向け。まっとうな念能力者になら傷一つ付けられないようなものばかり。
こっちは楽勝、だ。
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放ったらかしにしていた携帯の奏でるドナドナの旋律に、はてと首を傾げる。それから一人で納得したよう「あぁそうか」とつぶやいて、アゲハは電話を取った。
「カナンなら電源切ってる」
どうせ用件はそんなことだろうという第一声。
尤も、そんなことは相手にだって分かりきっているだろう。
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