扉を開けると同時に点く明かり。
それが住み慣れた人工島でのことであったなら、アロウもわざわざ口を開きはしなかっただろう。
「どういう仕組みなんですか? これ」
そもそもどういう原理で部屋が明るいのかさえ、いまいち分かっていない。
アロウは頭上のニドヘグを落とさないよう気をつけながらも、器用に首を傾けた。
「明かりのこと?」
「それもですけど。勝手に明るくなりませんでした? 今」
落とされたところで、小さくなろうと竜は竜。ニドヘグは羽ばたきさえすれば飛べるのだが、それはそれとして。
「壁に埋め込まれた精霊石が私たちの魔力に反応したのよ」
あの辺とあの辺とあの辺あの辺。――そう、部屋の四隅を指差して。リーヴスラシルは「見ててね」と、アロウの前でゆっくりと手を握る。
その動きに合わせて明かりが絞られ、部屋は徐々に暗くなっていった。
「中に人がいれば勝手に明るくなるんですか?」
「そう。普段垂れ流しにされる魔力を拾ってるの。だから――」
一度完全に精霊石への供給を絶ってから、もう一度手の動きに合わせゆっくりと魔力を流していく。
その程度の操作であれば、大抵の人族はできて当たり前のことだった。最も初歩的な魔術の段階とも言える。日常生活の中で自然と身につけていくレベルのもの。
「アロウ。あなたに課題を与えます」
むしろ出来ない方が問題だと、さっさと習得させなければおちおち留守番もさせられないことに気付いてしまって。
リーヴスラシルはいかにも教師然と、威張り腐ってアロウの胸元を指差した。
「なんか唐突ですね…」
「私が帰ってくるまでに部屋の明かりを消せるようになっておくこと」
心臓の真上。
余程のことがない限り、魔力を持つ生き物の《マナ》はそこにあるはずだった。
「だいだい魔力の操作が出来ないとあなた、一人でシャワーも浴びられないのよ」
「…それは困ります」
「でしょう?」
簡単なコツくらいは教えてあげられるから――と。
そう、軽く請け負った。リーヴスラシルの思う「コツ」が果たして自分にとって参考となるものか。甚だ疑問に思いながらも、アロウはこっくり首肯した。
そもそもそれが全ての原因でいて、当初の目的なのだから。抗う余地はない。
(魔法世界の生活水準/姫と迷子。れっすん)
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