明確な殺意、と言えるほどの殺意でもない。
それでも「殺していい」というルールなら、揚羽は目前の獲物に対して遠慮してかかる理由が分からなかった。
「――――」
ひゅっ、と短く息を吸って。瞬き一つする間に向かってきていた囚人の喉首を掴み上げている。アゲハは間髪入れずにその体を床へと叩きつけ、鮮血をまき散らした。
「嗚呼、しまった」
無表情なまでに言って、既に事切れた男の上から傾いていた体を起こす。
汚してしまった手袋を抜き捨てると、なんの感慨もなく真新しい死体へ背を向けた。
「まぁ、ざっとこんなもんさな」
四人の元へ戻る頃には、上着の胸元から取り出した新しい手袋を着け終えている。
----
喉を潰しに来た相手の行動を嘲笑うかのよう身を翻して。軽やかに跳ねたアゲハはすれ違いざま、囚人の頭を両手で掴み着地した。
反動で持ち上がる囚人の体は、本人が状況を理解するより早く首を捩じ切られた上で床へと叩きつけられる。
ギャラリーの目にも留まらぬ速さで獲物を一人仕留めたアゲハは、至極つまらなそうに肩を落として首を傾げる。
「せっかくのゲームなんだ。もう少し楽しませてくれよ」
これじゃあ暴走もできやしない、と。床にめり込みひしゃげた頭部へぼやいた。
----
両者はほとんど同時に駆け出して、舞台のほぼ中央で交錯する。
その時点でアゲハは相当お遊び気分だった。「走る」とも言えないような速さで走って。目の前の囚人を獲物であると認識したのは、手っ取り早く首を刎ねてしまおうと振りかざした手が男の首筋に触れた瞬間。
カチリとスイッチを入れたようあっけなく、アゲハは暴走した。
「壊れちゃえ」
アゲハに言わせてみれば一般人と大差ない。ギャラリーは、その動きを満足に追うことも出来ず至極楽しそうな笑い声を聞いた。
気付けば舞台の上に、アゲハ一人が立っている。
「な、何が起きたんだ…?」
狐に化かされでもしたように。誰かが言った。構えるでもなく舞台の中央で立ち尽くしていたアゲハは、その声につられたよう伏せていた視線を上げる。
自分自身の腹を割いて内臓を掻き毟りたくなるほどの空腹。中途半端に食事を終えたアゲハの周りには、お誂え向きな獲物がまだ残されていた。
ぽつ、と頬に落ちてきた液体が触れて。アゲハが一つ瞬きしている間に、屋内で血の雨が降った。鮮血に混じって落ちてくる肉塊は最早「塊」と言えるほどのものですらなく、それが元々「人」であったとは言われたとして到底信じられる光景ではなかった。
そんな手のかかる作業を目にも留まらぬ速さでやってのけた。アゲハは次の獲物を求めて一歩踏み出す。ぐちゃりと踏み付けた挽肉には目もくれず。
殺気を持たないことがあまりに異様。
----
(カナンから電話です)
「もしもし――?」
「え? えー……大丈夫だよ。まだ殺していいやつしか壊してない。…本当だって」
「あたし? あー、まぁそうだな…うん。気をつける」
----
腹を抱えて笑い出しかけたところを、なんとか耐えて。せめて直視しないようにと、アゲハは自称「旅団」の囚人から精一杯顔を背けた。
「ちょーうける…」
有名税よね、と。カナンがいれば一笑に付しただろう。
抑えきれず肩を揺らしてしまいながら。アゲハは思い上がりも甚だしい男が報いを受ける音だけを聞いた。
「笑いすぎだろ」
「元気なうちに写メ撮っとけばよかった。カナンに見せてやりたい」
それでも「殺していい」というルールなら、揚羽は目前の獲物に対して遠慮してかかる理由が分からなかった。
「――――」
ひゅっ、と短く息を吸って。瞬き一つする間に向かってきていた囚人の喉首を掴み上げている。アゲハは間髪入れずにその体を床へと叩きつけ、鮮血をまき散らした。
「嗚呼、しまった」
無表情なまでに言って、既に事切れた男の上から傾いていた体を起こす。
汚してしまった手袋を抜き捨てると、なんの感慨もなく真新しい死体へ背を向けた。
「まぁ、ざっとこんなもんさな」
四人の元へ戻る頃には、上着の胸元から取り出した新しい手袋を着け終えている。
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喉を潰しに来た相手の行動を嘲笑うかのよう身を翻して。軽やかに跳ねたアゲハはすれ違いざま、囚人の頭を両手で掴み着地した。
反動で持ち上がる囚人の体は、本人が状況を理解するより早く首を捩じ切られた上で床へと叩きつけられる。
ギャラリーの目にも留まらぬ速さで獲物を一人仕留めたアゲハは、至極つまらなそうに肩を落として首を傾げる。
「せっかくのゲームなんだ。もう少し楽しませてくれよ」
これじゃあ暴走もできやしない、と。床にめり込みひしゃげた頭部へぼやいた。
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両者はほとんど同時に駆け出して、舞台のほぼ中央で交錯する。
その時点でアゲハは相当お遊び気分だった。「走る」とも言えないような速さで走って。目の前の囚人を獲物であると認識したのは、手っ取り早く首を刎ねてしまおうと振りかざした手が男の首筋に触れた瞬間。
カチリとスイッチを入れたようあっけなく、アゲハは暴走した。
「壊れちゃえ」
アゲハに言わせてみれば一般人と大差ない。ギャラリーは、その動きを満足に追うことも出来ず至極楽しそうな笑い声を聞いた。
気付けば舞台の上に、アゲハ一人が立っている。
「な、何が起きたんだ…?」
狐に化かされでもしたように。誰かが言った。構えるでもなく舞台の中央で立ち尽くしていたアゲハは、その声につられたよう伏せていた視線を上げる。
自分自身の腹を割いて内臓を掻き毟りたくなるほどの空腹。中途半端に食事を終えたアゲハの周りには、お誂え向きな獲物がまだ残されていた。
ぽつ、と頬に落ちてきた液体が触れて。アゲハが一つ瞬きしている間に、屋内で血の雨が降った。鮮血に混じって落ちてくる肉塊は最早「塊」と言えるほどのものですらなく、それが元々「人」であったとは言われたとして到底信じられる光景ではなかった。
そんな手のかかる作業を目にも留まらぬ速さでやってのけた。アゲハは次の獲物を求めて一歩踏み出す。ぐちゃりと踏み付けた挽肉には目もくれず。
殺気を持たないことがあまりに異様。
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(カナンから電話です)
「もしもし――?」
「え? えー……大丈夫だよ。まだ殺していいやつしか壊してない。…本当だって」
「あたし? あー、まぁそうだな…うん。気をつける」
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腹を抱えて笑い出しかけたところを、なんとか耐えて。せめて直視しないようにと、アゲハは自称「旅団」の囚人から精一杯顔を背けた。
「ちょーうける…」
有名税よね、と。カナンがいれば一笑に付しただろう。
抑えきれず肩を揺らしてしまいながら。アゲハは思い上がりも甚だしい男が報いを受ける音だけを聞いた。
「笑いすぎだろ」
「元気なうちに写メ撮っとけばよかった。カナンに見せてやりたい」
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