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――沙鬼[サキ]

 知る人も少ない魔法学校の《隠し部屋》で一人、暇を持て余していた沙鬼は、待ち望んだ主の声に目を覚ます。

「マスター、」

 魔力を伴わない呼び声が《言霊》として響くことはなかった。けれど沙鬼は己の声が届いたことを確信して、何もない空間へと両手を差し出す。

「――ここにいたのね」

 次の瞬間、沙鬼はその腕に唯一忠誠を誓う無二の主を抱いていた。マスターと、確かめるように呼べば漆黒の瞳が己を映す。

「王城からだったから、呼んでくれてよかったわ」

 呑み込まれそうな色だ。





「何か急な用事でも?」

 《王城》からの《転移》は干渉が多くていつも苦労させられる。今日のように誰かが《呼んで》くれなければ、諦めて城外まで歩いているところだ。

「仕事よ。おかげで城の干渉の中から《渡る》羽目になったわ。――時間がないから行くわよ」

 でも今日は時間がない。だから無理をして空間を抉じ開けた。

「イエス・マイロード」

 そしてもう一度、今度は沙鬼を連れて私は《次元の狭間》を呼び寄せる。
 《王城》の中からでなければ、どこへ行くにも苦労はしなかった。

「いきなり修羅場になるからそのつもりでね」

 目的地は《王都》から少し離れた所にある《北の森》。そこで近く行われる《儀式》の阻止と《生贄》の保護が今回の仕事だ。――生贄を使う儀式に、新月の今日以上相応しい日もないだろうに。
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