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「ウトガルド・ロキでさえ傷付けられないとは、よく言ったものだ」

 午後の講義も終わって、特に寄り道する用事もなかった私は黒猫と二人帰路についた。

「本当のことでしょ?」

 《王立魔法学校》から最近使っている部屋まではそう遠くない。学校を出て大通りを渡り、幾つか路地を曲がればすぐそこだ。

「そういう意味じゃない」

 くつりと、腕の中の黒猫が喉を鳴らす。それまで機嫌良さげに揺らめいていた尻尾が促すよう肩に触れたので、私は手を離した。

「じゃあどういう意味よ」

 支えを失った黒猫は空中でしなやかに体勢を変える。けれど着地することはなく、その姿は空間へ滲むようにして消えた。
 入れ替わり、私の前には一人の男が現れる。透けるように白い肌をした、美しい男が。

「無知とは恐ろしい、と…それだけだ」
「なんだそんなこと」
「逆にお前は知りすぎていて恐ろしいがな」
「誰のせいだかね」

 男――リーヴ――は姿を消した黒猫と同じようにクツリと喉を鳴らして、私に手を差し出した。私は迷わずその手を取り、足取り軽く歩き出す。

「帰ったら昨夜の続き、する?」

 隠れ家的な雰囲気が売りの喫茶店。その二階に借りた部屋はもう目の前だ。

「これからか?」
「そう、これから」
「…せめて日が落ちてからにしておけ」
「そんなに私を寝不足にしたいの?」

 幾らもしないうちに私たちは一時的な《我が家》へと帰り着く。扉にかけた《魔法錠》を視線一つで開けたリーヴは私を窓際のソファーへ追いやって、自分はダイニングの椅子に座るとテーブルの上を指差した。

「それはお前が最後までやろうとするからだ。加減を知れ」

 そこには昨夜書き散らした新しい魔法の構想が山のように積み上げられている。もう少しだからと繰り返すうちに夜明けを見、足りない睡眠を講義中補おうとしたことを、彼は暗に責めているのだ。

「時間が開くとやる気失せない?」
「いいや全く」

 悪びれもせず小首を傾げた私をばっさりと切り捨てて、リーヴは紙片を《次元の狭間》へと仕舞い込む。どこにでも存在し、作り出すことの出来る《次元の狭間》は何かと便利だけど、誰かと同じ場所に《穴》を繋げるのは限りなく不可能に近い。出来ないことはないけれど、やろうと思えば一日がかりだ。

「いじわる」

 読書用のソファーに沈んで、私は目を伏せる。

「忘れるな、今のお前は違う」
「……」

 そうさせたのはそっちのくせに。――零れそうになった言葉を寸前で呑み込むと、体の内側でマナが疼いた。《魔法師》と《魔法生物》の中にだけ存在する魔力の源は、いつだって感情と直結していて困る。

「暁羽」
「わかってるから…もういいでしょ?」
「違う、外だ」
「へ?」

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