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「最近那智が冷たくていけない」

 心底憂鬱気に、イヴリースは呻いた。

「いじめすぎたんだよ」

 強い酒を湯水のように飲みながら玉藻[タマモ]は意地悪く笑う。グラスの中で小さくなった氷を口に含み噛み砕くとガリガリ情緒のない音がして、無遠慮な冷たさが火照った体に心地よかった。

「…やっぱり?」
「気に入った相手ほど手酷くやるんだから、小学生のような習性じゃあないか」

 既に空になったボトルは三つ。まだまだ酔いは回ってこないが、はてさて、いつまで飲めたものか。――傷口に塩を塗るようなことばかり言いながら、玉藻はグラスに映る冴えない容貌を覗き込んだ。

「イスラの姿を見なくなったのもそのせいか…」
「そのうち本当に嫌われるよ」

 ばたり。イヴリースがカウンターに突っ伏すと、心なしか精彩を欠いた銀糸が扇のように広がって、玉藻の元に届いた。

「人間の子供に、何をそこまで入れ込むことがある」

 思いがけず真摯な響きの声に、イヴリースは息を吐く。

「やっぱり変?」
「…いいや。お前らしといえばそうだろうね」

 彼女自身戸惑っているのだ。

「けれど思わせぶりなことばかりしないことさ。お前が《そう》であることを割り切れるモノは以外と少ないんだからね」

 感情が奇妙な具合に揺れているのは知っていた。けれどそれを放置した。なぜなら彼女は《力》であり《精神》ではないのだから、心の乱れによって力を乱されることはない。
 そう、彼女は失念していたのだ。ここが《例外》の世界であることを。

「さぁさ、本格的に嫌われないうちにご機嫌取りにでもいっといで」

 イヴリースは《神の力》。《神の精神》ではない彼女にとって《感情》は決して《力》以上のものにはなりえず、またそうあるべきだ。――彼女によって生み出された《世界》の中では。

「お前がいつまでもそれじゃ調子が狂うんだよ」

 ぐずるイヴリースを無理矢理に談話室から追い出し、玉藻もまた深く溜息を吐いた。
 流した視線はカウンターの端へ。

「ここの全てが落ち着かなくなる」

 アベリアを映す小窓の外で、世界は落ち着きなく揺れていた。

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