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 時間がなかった。

「…すぐ終わらせる」

 特製の魔法陣が私に寄越す力は確かに膨大だけど無限ではないし、夢魔によって精神を蝕まれ魔力の源であるマナが正常に機能していない現状では、恐ろしいほどの速さで魔力を消費する。

「そうして」

 本当は蒼燈と夜空をどこかへやってしまいたいのに、魔力が安定しないせいでそんなことすらままならない。

「――蒼燈」
「…なんですか」
「邪魔しないでね」

 どす黒い何かが胸の中でわだかまっている。元々白くなんてない私の内側がどんどん汚されていくのが嘘みたいに鮮明で、――全部夢ならよかったのに。

「――――」
「っ……」

 リーヴが人の耳では聞き取れない言葉を紡ぎ始めると、私にかかる負荷が増した。何事かと身構えた夜空を蒼燈が制して、私は彼らの死角で拳を握る。

「――――」

 力の矛先は呪われたエルフ。傷付けはしない。ただ媒体として使い、私との繋がりを断ち切るだけ。
 私の中に夢魔は入れない。けれど夢魔は私の夢を喰らった。原因は意図せずして結ばれた《繋がり》。あってはならない綻び。意識を失っていたエルフと精神を切り離していた私の間に生まれた《目覚め》ようとする《無意識》。

「――いた」

 不運にも閉じ込められた夢魔。

「潰すぞ、感覚を切り離せ」
「簡単に言わないでよ」
「出来なければ言わない」
「はいはい」

 言われた通り精神的な感覚を肉体から切り離した刹那、消失する《わだかまり》。崩れ落ちかけた体を当然のように支えられた私は、リーヴの手の中に赤黒い石を見つけた。

「終わり?」
「…いいや」

 夢魔の命[マナ]。

「まだだ」





 人ではない。魔物でもない。魔族でもなく、ましてやエルフなんてものであるはずもない。ならば残された可能性は二つ。

「そろそろ説明してもらえませんか? 暁羽」

 神か、巨人か。

「その必要はないな」

 当然のように暁羽の傍らに立ち、彼女を支える男は不愉快そうに表情を歪め、こちらを見やる。

「お前たちと馴れ合うつもりはない」
「……」

 人らしさの欠片も持たず、魔物のように醜いわけでも、魔族のように禍々しいわけでも、エルフのように透き通っているわけでもないその男は、指先の動き一つで部屋中の魔法陣を止め、同時に溢れさせていた己の力を消した。

「それに…、」

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