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 初めから「やるべきこと」「やらなければならないこと」を持たないリーヴスラシルは下手をすると、日がな一日リーヴをソファーに座らせその膝を枕にごろごろと懐いているようなことも珍しくないような、ぐうたらな姫だった。気分が乗らなければ本当に何もせず、退屈であることを不幸だとも思わない。退屈することさえできなかった過去の経験から、それさえ今は面白がりながら楽しんでもいた。
 巨人の《王》であるリーヴを無為に拘束し続けることへの罪悪感など、露程も覚えはしない。それが当然の権利であるとして、端整な容貌を見上げる視線はいっそ気怠げでさえあった。

「ねぇ、リーヴ」

 伸ばされた手は、ぐいと無遠慮なまでに艶やかな銀の髪を引く。

「ん?」
「暇?」

 そして時折、リーヴに対してそう問いかけた。
 さしたる意味はなく――けれど、返答を誤れば確実に機嫌を損ねる――ただ「聞きたくなったから」と、それだけの理由で発せられる問いかけ。リーヴは迷うことも――偽ることさえ――なく「否」と答え、リーヴスラシルの首元へ置いていた手を擽るように動かした。

「なぁに?」

 くすくすと笑いながら身を捩るリーヴスラシルの声は軽い。肩と頬で挟み込むようリーヴの手の動きを止めながら、気持ち良さそうに目を細めてもいた。
 そうやってリーヴスラシルのことを見ているだけで、リーヴとしては割と楽しい。少なくとも、退屈だとは思わなかった。

「リーヴは私のことが好きすぎるわね」
「不満か?」
「いいえ。愛されることは好きよ、私は何をおいても愛されていたい」

 まず愛されていることが重要なのだと、リーヴスラシルは言う。リーヴはその願いを叶えてやることができた。何よりもまずリーヴスラシルのことを愛し、そのためになら他のあらゆるものを蔑ろにしてさえしまえる。だからこそリーヴスラシルがこうして「退屈」していられるのだと、分かってもいた。
 リーヴはリーヴスラシルの由縁を理解している。

「なら、構わないだろう」

 リーヴスラシルが何故愛されることを望むのか、どうして愛され続けていたいのか。その理由を、リーヴは正しく知っていた。突き詰めて言えば結局のところ、リーヴスラシルが求めるものはたった一つでしかないことも、分かっている。

「でも、これじゃあ私が甘やかされてるのか、リーヴがただ甘やかしたいだけなのか分からないじゃない?
 ――たまにはつれなくしたっていいのよ」
「たとえば?」
「私をほっぽって出かけちゃうとか」

 そんなことをすれば、脱走癖のあるリーヴスラシルが行方を晦ませてしまうことは目に見えていた。そんなことになってしまえば、リーヴにはリーヴスラシルが大規模に魔力を行使するか、リーヴのことを呼ぶかする他にその居所を突き止める手立てがない。
 リーヴスラシルはリーヴが自分のことを必死になって探すだろうと分かっていて、そんなことを言うのだ。
 自分が愛されているのだという実感のためにそうしょっちゅう逃げられても敵わない。

「この首に鈴をつけてしまうとか?」

 リーヴはそう、口にしてみてから「案外名案かもしれない」などと考える。首輪をつけて繋ぐことはできないが、「鈴」ならば…と。

「リーヴ、あなた今すっごーく悪い人の顔してるわよ」
「お前が来てから表情豊かになったとよく言われる」
「鈴なんて、猫じゃあるまいし…」
「…近いものはあるだろう」

 言い得て妙というやつだった。

「酷い!」

 ぎゃっとして飛び起きたリーヴスラシルは、引っ掴んだクッションをリーヴへと叩きつけ部屋を飛び出していく。
 一瞬、リーヴスラシルがまた城から脱走するのではないかと危惧したリーヴは、慌ててその後を追いかけ――部屋の外から聞こえた、ビューレイストを呼びつける声にほっと腰を落ち着けた。
 そして、城の中を闇雲に歩き回っていては、いつ出会えるとも知れない女をわざわざ呼び出してもやる。

「(リーヴスラシルが探しているぞ)」

 ビューレイストは、リーヴの《王》としての《マナ》を分けて生み出された分身のような存在だった。
 元はただ与えられた役目へ忠実に動くだけの人形でしかなかったものを、リーヴスラシルがさも「個人」のよう扱ったがために、いつしか自我さえ持つようになっていたもの。

「(今度は何やらかしたんですか)」
「(私が悪いのか)」
「(悪いのはいつだって主(あるじ)ですよ、寵姫が正しいんですから)」

 そういう経緯もあって、ビューレイストのリーヴスラシル贔屓はリーヴの比ではなかった。
 歴然と白いものでもリーヴスラシルが言えば平然と黒だと断じてしまえるほどの盲目さが、ビューレイストにはある。リーヴのことを自分の上位にあたる存在であると認めながらも、リーヴスラシルのこととなれば口煩く意見することも厭わず、リーヴの不興を買うことさえ恐れはしなかった。

「(さっさと行ってやれ)」
「(言われなくとも)」

 リーヴスラシルもリーヴスラシルで、そんなビューレイストの性質を分かっていて何かあればまず「告げ口」するというようなことを、最近は繰り返している。ヨトゥンヘイム広しといえど、《王》たるリーヴに正面切って嫌味を言ったり、批判することのできるような巨人はビューレイストの他にいない。リーヴスラシルは明らかにそれを面白がっていた。
 何にせよ、城の中で事が済むなら問題はないだろうと、リーヴは落ちていたクッションを拾い――それをソファーの上へと戻して――それまでと同じよう頬杖ついて肘掛けにもたれた。ビューレイストが相手をすればリーヴスラシルもそのうち機嫌を直して――おそらく、リーヴにぐちぐちと文句を言いたくて堪らないビューレイストを連れ――戻ってくるだろうと、それをのんびりと待っているつもりでいる。
 リーヴスラシルのいない一人の時間は、それまでと打って変わって「退屈」極まりなかったが、ビューレイストがリーヴスラシルの傍にいるだけ、リーヴにとってはまだ「マシ」だった。少なくともリーヴスラシルが自分から戻ってくるのを待っていることはできる。できるだろうと、リーヴは眠るでもなく目を閉じた。
 よもやそのまま二人が連れ立って城下に繰り出し、半日近く待ちぼうけを喰わされるとは思ってもみない。

 すっかり機嫌を直し戻ってきたリーヴスラシルへリーヴは《鈴》をつけ、それだけはリーヴスラシルが何と言おうと、けして外してなどやりはしなかった。





(愛玩少女と甘やかし/姫と王。すず)
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