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小噺専用
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 たった一人の牢獄。《闇》だけが私の傍にいた。私のために言葉を紡ぎ、知識を与え、確かな自我の芽生えを助けた。それ以外は何もなかった。本当は、それさえ許されてなどいなかったのだと《闇》はいつか言っていた。

「ねぇ――」

 夜へと差し伸べた手に触れる。確かな形を持たない《闇》は、やがて纏わりつくよう腕を取り巻いた。
 そうして上向いた手の中へ、小さな実体を落とす。

「ノアル?」

 それは、温かな小石だった。

「精霊石か」

 呟いたのは、私を抱き上げて運ぶ巨人の《王》。私が「リーヴ」と名付けた美しい人は、自ら「精霊石」であると判じた小石について「落とすなよ」と私に言いつけた。
 だから私はそれをぎゅうと握りしめ、胸元に抱きしめる。

「せいれい、せき…」

 とくりとくりと、微かに脈打ってさえいる小石の中にノアルの存在を感じた。私に世界の知識を与えてくれた闇の精霊を。
 ノアルは精霊石について話してくれたことがあっただろうか。思い出せない。ただ、精霊が生み出し人に与える魔石のことなら知っていた。

「輝石、と…何が違うの?」
「違わない。同じものだ。人はそれを精霊石と呼ぶし、そうでない者は輝石と呼ぶ。
 …そうか。お前の知識はその精霊から得たものか」

 返事の代わりに一度頷き、もう一度手の中の小石を覗き見てみる。正しく《闇》の結晶に相応しい、黒々とまろい有様の石は、それが私の知っている通りのものであるならこれから先もずっと長い間――それこそ、私が死ぬか石が砕けてしまうまで――一緒にいることになるはずのものだ。

「あとで、身につけられるよう加工させよう」
「うん」

 失くしてしまわないようしっかりと握りしめなおす。仕上がりが今から楽しみだった。ノアルが私に、精霊という自由な存在を捨ててまで寄り添ってくれるというのだから。失くしたはずだった「何もかも」のうち、一つはちゃんとこうして手元に戻ってきたから。
 ただただ嬉しかった。
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