「僕を朱鳥(あすか)ちゃんの犬にして」
七年と少し。四苦八苦しながら手のかかる子供でしかなかったあたしのことを精一杯「まとも」に育ててくれた養親からの、それは酷く衝撃的な懇願だった。
だって普通、義理とはいえ自分の娘に「犬にして」なんて言うか?
いやまぁ確かに、世間一般――人が思うところ――の常識に当てはめて考える方がおかしい人だとは分かってるんだけど。それにしたって…。
「頭沸いてんのか」
「あうっ」
齢十二。そこそこ伸び盛りであることも手伝って、新調したばかりの真新しい革靴。その一蹴をもろにくらい、「養親」はあっけなく後ろへ倒れた。それどころかそのままころころと転がっていき、最終的には――べしゃり、と――壁にぶつかりようやく止まる。
その頃には金髪赤目の――いかにも人離れした――美丈夫が、大きな金の毛玉と化していた。
「痛いよ朱鳥ちゃん…」
「目は覚めた?」
「うぅー…」
金毛九尾。――それが、あたしの養親の本性。美しさにかけてはそうそう他に類を見ない、上等な人外。
生憎、性格についてはいたって残念だが。それにしたって「犬にして」は酷い。酷すぎる。
「また御前(ごぜん)に何か吹き込まれたの?」
「違うよぉ」
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