忍者ブログ
小噺専用
80 80 80 80
80 80 80 80
[1]  [2]  [3]  [4]  [5]  [6]  [7]  [8
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


 くたりと横になったままぴくりとも動かない。俯せたまま死んだように眠るイツキの傍らで、恭弥は大人しく本を読んでいた。他にすることもしたいこともなく、ただこの場を離れるべきでないことだけは分かっている。イツキの眠りは浅いのだ。
 恭弥が側にいて、たまに寄りかかったりちょっかいをかける分には問題ないのに、どこかへ行こうとすればたちどころに目を覚ましてしまう。人が近付いてきた時もそう。この家に来てからイツキは前にも増して自分以外の人間を寄せ付けなくなったと恭弥は思っている。イツキがそれをあからさまに態度で示すことこそないが、少なくとも前の家にいた時より外面が良くなっているのは確かだ。イツキはいつもそうやって面倒事を回避する。今までそれが通用しなかったのは一人だけ。その一人はもういない。もう二度とあの理不尽がイツキの身に降りかかることがないと知った時、恭弥は正直安堵した。そうするより他に何も浮かばなかった。イツキがいらないと思って捨てたものは恭弥にとってもいらないもの。双子なのだからそれが当然だと、恭弥は信じて疑わない。イツキがこうと決めるのは、いつだって恭弥のためなのだ。

「――……」

 不意に目を覚ましたイツキが、傍らに放り出していた本を手に取り体を起こす。寝乱れた髪を手早く直し、恭弥と背中合わせに座るまではあっという間だった。服越しの体温が恭弥へ届く頃には、障子を開け放った部屋の前に匠が顔を出す。

「イツキちゃん、恭弥君。ごはんだよー」
「はぁい」

 イツキは素直に応えて、立ち上がりがてら恭弥の手を引く。そうされて初めて恭弥は顔を上げた。
PR

 飛んでくるバズーカの弾を避けるのは簡単。だけど私が狙われたというのはつまり入れ替わる必要があるということで、無下にするのは憚られた。どのタイミングに呼ばれたとしても死ぬようなことにはならないだろうし。――と、気安く考えていたのが悪かったのか。

「……」

 ここで私のターンが来ることは考えてなかった。

「――女…?」

 これは下手すると死ぬ。

(幻騎士の前に放り出される)


----


「藤堂イツキ…!」

 驚愕よりも畏怖の方が色濃い声だ。どうにも十年後の私は恐れられているらしいと、思ったのもつかの間。

「貴様は死んだはずだ!!」
「…はぁ?」

 聞き捨てならない科白だ。私が死んだだなんて。

「…生憎ピンピンしてるわよ」

 そんなことあるはずないのに。

「雲雀恭弥だったというのか…」

 そんなこと、あっていいはずないのに。

(分かってしまった姉)


----


「――恭弥が、なに」
「ッ!」

 思わず抑えることを忘れた殺気に刃が飛んでくる。条件反射よりも本能に近いような攻撃。だからこそ正直に急所狙いでいて、直前の変化は望めない。

「――あぁ、もう」

 そして幸いにも炎は纏っていなかった。

「わけわかんない!!」

(逆ギレ)


----


 腕に沿わせたトンファーで上手く斬撃を流して、振り抜いた足は体側直撃。だけど浅い。きっと大したダメージは与えられなかっただろう。分かっていて、次の攻撃が来る前に右手を握る。

「アリス!」

 足元にあった雲ハリネズミの匣を拾って後ろへ跳ぶと、入れ代わり私のいた場所に現れたアリスはガツリと三叉槍の底で地面を穿った。六道骸と同じモーションで発動する幻覚。生み出されるのも同じ蓮で、ただその勢いは半端じゃない。

「この後どうする?」

 正面にいるアリスの声はすぐ耳元で聞こえた。一拍おいて実体が現れ、見ると幻騎士の前に立ちふさがっていた方のアリスは既に跡形もない。

「雲ハリネズミを暴走させるかしてこの辺りのブロックを固定しないと」
「あの男は?」
「まだ出番がある」
「殺すなってか」
「殺していいなら私がやってるわよ」

 足止めはある。逃げるのは簡単。だけど流れを壊さないためにここにいるのは恭弥でなきゃ。だって私は持ってない。

「指輪…」
「なに?」
「指輪がいるのよ。ボンゴレリングみたいに力のある指輪。人間の体に流れる波動を死ぬ気の炎に出来るやつ。あれがないとこの時代じゃ戦えない」
「…マーレリングとかヘルリングとかそういう?」
「知ってるの?」
「だてに長生きしてないっての」

(アリスの設定間違えた)


----


「力のある石はお前の中にある。思い描いて創り出せ。だが忘れるな。使える炎はお前と私に共通するものだけだ。雲と霧。それ以外は使えない」
「二種類使えるならそれだけで上々よ。――行くわ」

(最後の「行くわ」は攻機の少佐っぽく)


 恭弥は怪我をしなかった。それでも物語は順調に展開してる。イレギュラーは許容範囲内で、問題ないはずなのにどこか落ち着かないのは何故だろう。

「きょうや、」

 呼びかけは自分でも驚くほど頼りなかった。本当にちゃんと呼べた分からない。だけど恭弥は振り向いて、私の顔を見ると何でもないことのように言った。

「帰る?」

 それでいいのとは、聞けない。

「…眠い」

 僕は眠い。だから帰るよ。――すれ違い様に私の手を取った恭弥はそのままなんの躊躇いも見せず歩き続けて、私を側車へ押し込んだ。吹かされたエンジンの音は容赦なく遠くからの声を掻き消してしまう。それが故意なのか偶然なのかは分からなかった。
 考えたくもない。

「出すよ」
「うん」

 あぁだから、私さえ知っていればそれでよかったのに。

「安全運転でお願い」
「君にだけは言われたくないね、それ」

 それでも信じていたいのよ。

(雲の守護者の暴走後)


----


「引きずられていますよ」
「…――あぁ、そうなの」

 言われるまで気付かないなんて滑稽な話だ。でもきっと無理はない。自分の中にいるもう一人の陰鬱とした状態に感情を引きずられるだなんてこと、そうそう起こりはしないのだから。

「正気を保っていられるだけでも相当人間離れしてますけどね」
「大きなお世話よ」

 握り込んだ右手に熱が生まれて、私はその熱をなんの躊躇いもなく投げ捨てる。便利だしあっても邪魔にならないから放っておいただけなのであって、私に害があると分かった以上そのままにしておけるわけがない。

「あとは煮るなり焼くなり、好きにしたら」
「そうですね」

「――イツキ!!」

 投げ出された赤い宝石は瞬き一つで血肉を纏い、悲痛な悲鳴を響かせる。けれど私にはもう、その程度で動く感情が残っていない。これはアリスの自業自得だ。

(わたしをゆるがすあなたはいらない)


----


 跪きながら差し出される手に動く感情はない。ただ冷たく一瞥するに留めるほど無欲でも。

「彼は?」
「……」
「そう…また逃げたの」
「お前が逃げるな、っていうならもう逃げないよ。ちゃんと向き合う。だけどその前に、お願いだから捨てないでくれ」
「あなたはしてはいけないことをしたのよ。それを私に許せっていうの?」
「許さなくていい」

(だけど捨てないで)

 イツキの体は時々おかしくなる。その「時々」は決まって恭弥に会えない時だ。だから恭弥はイツキの不調を知らないし、イツキも気付かれるような下手は打たない。私は口止めされているから言えないし、骸はそれとなく気付いてはいるのだろうが、恭弥に告げ口するほどの確証は持てていないはず。


----


 目が覚めると世界は音を失くしていた。静寂とは違う全くの無音。これはさすがに面倒だと、思わず顔を顰めてしまう。耳はまずい。それに今日は恭弥が帰ってくる日だ。今までこんなことなかったのに。


----


 まずい。

『唇の動きを読んでるね』
「や…」
『聞こえてないんだろ』
「……」
『いつから』
「…起きたら…」
『どうしてすぐ言わないのさ』
「すぐ治るかと…」
『…初めてじゃないね』
「え?」
『今までにも似たようなことがあった。違う?』
「あー…」
『洗いざらい吐いてもらうよ』

 通り雨にやられてすっかり濡れ鼠。ついてないなと思いながら家に着くなりバスルームへ直行すると、先に帰っていたらしい恭弥が同じような有様で制服を絞っていた。

「恭弥も降られちゃった?」

 ほんの少し握るだけで水がぼたぼた。玄関先である程度絞ったとはいえ、脱いでから改めて絞り直せば出てくる出てくる。いったいどこに溜め込んでたんだか。

「シャワーは?」
「恭弥が先でいいよ。その間に制服干すから、お湯溜めといて」
「わかった」


「…君が入ると湯が温くなる」
「なにそれ酷い」
「酷くない。本当のことだよ」
「そういう時は黙ってお湯足すとか、初めから設定温度上げとくとかさぁ…」
「熱がるくせに」
「お風呂は温いくらいがいいの!」
「そうだね」


「あ…」
「なに」
「着替持ってくるの忘れた」
「いつものことだろ」
「うんまぁ」

「適当に取ってくるよ」
「ありがとー」


----


 伸ばされた手が頬を包み込むように触れ、そのままゆるりと鎖骨にかけてを滑った時、予感はした。

「きょうや?」

 浴槽の縁にしなだれかかったまま。反対側の首元を押さえられたら動くに動けなくて、それ以前に気力が足りていない。雨に濡れるというのは想像より遥かに体力を消耗する、から。

「目、とじて」

 言われてその通り。目を閉じると目尻に柔らかい感触がして、次は唇。ほんの一瞬触れ合って離れた。

「まだだめ」

 体を押さえているのとは別の手が今度は視界を覆う。大人しく目を閉じ直すとそのまま髪を撫で付けられて、もう片方の手が首筋を支えた。

「んっ…」

 上向かされてもう一度。触れ合った唇の間から今度は舌を差し込まれて、思わず跳ねた体がべったり引き寄せられる。
 心臓の音が近い。


 引ききった引き金に相応の反動がなくて、舌打ち一つ。
 使い物にならないと分かった銃をそれでも捨てることが出来なかったのは、それが幻覚によって作り出したまやかしではないから。

「アリス!」

 ホルスターに戻した銃とは別のシグが構えた手の中に構築される。引ききった引き金には今度こそ確かな手応えが伴った。

(手入れしない姉)


----


(失敗したかな)

 不自然に、ではない。けれど確かに会話は途切れて、訪れる沈黙。静寂でないのはある意味都合が良かった。
 何をどこでどう間違えたのだろうかと、思案。けれど致命的なミスはなかったはずだ。今更彼女の意図を読み違えたりはしない。

(全部計算ずくな弟)

 銃を使って人を殺すのはあんまり好きじゃなかった。簡単すぎてつまらないから。だけど今はもうそんなこと思わない。そもそも人殺しに楽しみを求めること自体間違っていたんだ。

「Addio――」

 決別を囁いて、指をかけた引き金は軽い。構えた銃の向こうで散る命の重さなんてそれ以上だ。私にとって何の価値もない。不要だから殺すのだ。
 乾いた発砲音は装弾数きっかりで途切れ、下がったスライドが戻らなくなる。弾切れだ。マガジンを変えないままストップに指をかければスライドが戻りはしても中は空のまま。構わず引き金を引くとあるはずのない銃声が空気を震わせた。幻覚だ。それでも人は死ぬ。もし幻覚に耐性のある人間が紛れていたとして、その時は有幻覚を使えばいいだけのこと。問題はない。

「――――」

 最後の一人を仕留めて深呼吸。手を離した銃は地面に落ちる直前霧散した、これも幻覚。初めから本当の武器なんて何一つ持ってはいなかった。まるきり手ぶら。なのに襲撃してきた男たちの、なんてだらしないこと。丸腰の女一人相手に全滅だなんて。

「Buonanotte」

 笑い話にもなりやしない。

Template by Crow's nest 忍者ブログ [PR]