並中に雲雀は二人いる。《最凶の風紀委員長》雲雀恭弥と、その《姉》雲雀イツキだ。
二人は双子なので、一見すると見分けはつかない。あえて言うならトンファーを振り回す方が弟で、トンファーを出す間もなく敵を再起不能にするのが姉だ。
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学ランを着てさえいれば、私と恭弥を見分けられる人なんていない。だからというわけではないけど、学ランを着ている時は大抵、私は雲雀イツキというより雲雀恭弥として振舞うことが多い。
群れてる奴等を見つけてはトンファーで咬み殺してみたり、群れてる奴等を見つけてはトンファーで咬み殺してみたり、みたり。
まぁ結局、普段とやってる事は変わらないんだけど。
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言葉にしなくても考えている事が分かるのは、双子の特権。だから私はいつも表面的な静けさに甘えて、大切な事を音にし損なう。
「恭弥ぁ」
今日はなんだか、一人は嫌。でも気付いた時には恭弥は家を出て行ってしまっている。哀れっぽく呼んでも答えてくれるはずはなくて、分かっていても目が熱くなった。
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「悪いな」
真赤な左目と真青な右目を持つ黒髪の女が、まったくそうとは思っていないような声音で謝罪する。顔はお手本のような満面の笑顔だ。
「お詫びに何か奢ろう」
「幾ら何でも無理があるわよ、それ」
「そうか?」
「…まぁ、いいけど」
ここで注目すべきはやはり彼女の左目だろう。漢数字の六が刻まれた眼球なんてそうそうお目にかかれる代物じゃない。というか、あるはずがないのだ。
そのありえなさに思うところがある私は、これが茶番だと分かっていても女と連れ立ってコーヒーショップに入ってしまう。
女はざっとメニューを流し見てから私を顧みた。
「何がいい?」
「バニラクリームフラペチーノ」
即答する私に「そうか」と一つ頷いて奥のテーブル席を示す。
「座っててくれていいぞ」
「それはどーも」
女の仕草はいちいち洗練されていた。その上容姿は充分すぎるほど整っているし、存在感だって半端じゃない。にもかかわらず恐ろしいほど目立っていなかった。街を歩けばすれ違う十人が十人振り返るような女なのに、私以外誰も彼女の方を見ようとしない。
「お待たせ」
けれど「何故、」という疑問は浮かばなかった。あの稀有な赤い目を持っているというだけであらゆる不自然が許容出来てしまえるのだから不思議なものだ。
「私についての説明は必要かな」
そんなもの、一目見れば分かる。
「名前くらい名乗ったら?」
「シニストラ」
「…イツキ、よ。苗字は必要?」
「いいや、知ってる」
甘くないクリームをぐるぐるカップの底へ押し込む私をシニストラは穏やかな目で見つめてきた。それが演技でないとすれば、彼女をあまり無下に扱うのも気が引ける。
「私が違ったらどうするつもりだったの? 左目さん」
私は元来好意に敏感だ。そして人間、好かれて悪い気がしないのは当然の道理ではなかろうか。
「別に、どうもしないさ。うっかり死にそうなほどのショックを受けてすごすご帰った」
もっとも彼女に対する感情はそんな受動的なものだけではないが。
「あ、そう」
真赤な左目と真青な右目を持つ黒髪の女が、まったくそうとは思っていないような声音で謝罪する。顔はお手本のような満面の笑顔だ。
「お詫びに何か奢ろう」
「幾ら何でも無理があるわよ、それ」
「そうか?」
「…まぁ、いいけど」
ここで注目すべきはやはり彼女の左目だろう。漢数字の六が刻まれた眼球なんてそうそうお目にかかれる代物じゃない。というか、あるはずがないのだ。
そのありえなさに思うところがある私は、これが茶番だと分かっていても女と連れ立ってコーヒーショップに入ってしまう。
女はざっとメニューを流し見てから私を顧みた。
「何がいい?」
「バニラクリームフラペチーノ」
即答する私に「そうか」と一つ頷いて奥のテーブル席を示す。
「座っててくれていいぞ」
「それはどーも」
女の仕草はいちいち洗練されていた。その上容姿は充分すぎるほど整っているし、存在感だって半端じゃない。にもかかわらず恐ろしいほど目立っていなかった。街を歩けばすれ違う十人が十人振り返るような女なのに、私以外誰も彼女の方を見ようとしない。
「お待たせ」
けれど「何故、」という疑問は浮かばなかった。あの稀有な赤い目を持っているというだけであらゆる不自然が許容出来てしまえるのだから不思議なものだ。
「私についての説明は必要かな」
そんなもの、一目見れば分かる。
「名前くらい名乗ったら?」
「シニストラ」
「…イツキ、よ。苗字は必要?」
「いいや、知ってる」
甘くないクリームをぐるぐるカップの底へ押し込む私をシニストラは穏やかな目で見つめてきた。それが演技でないとすれば、彼女をあまり無下に扱うのも気が引ける。
「私が違ったらどうするつもりだったの? 左目さん」
私は元来好意に敏感だ。そして人間、好かれて悪い気がしないのは当然の道理ではなかろうか。
「別に、どうもしないさ。うっかり死にそうなほどのショックを受けてすごすご帰った」
もっとも彼女に対する感情はそんな受動的なものだけではないが。
「あ、そう」
左目に指を突っ込んで抉って、眼球を放り出すと、体は崩れてなくなる。意識はぼんやりとしたままどこか不安定に漂い、やがて眼球を中心に出来上がった新しい肉体に取り込まれる。自分でも笑える話だが、私の本体は体ではなくこの左目なのだ。だから肉体を幾ら傷付けられたって構わない。眼球を抉り出しさえすれば、幾らだって替えがきくのだから
光さえ届かない水牢の中、することもなくただ漂っているのは心地いい。誰に邪魔されるでもないまどろみは穏やかで、私は、ずっとこんな風に眠り続けることを願っていたのだから。
このまま永久の眠りにつくことが出来たなら、それはどんなに幸せなことだろう。何者にも煩わされることなく、独りっきりで永遠に、穏やかな眠りにつくことが出来たら――
「……下らない、」
瞬きするよう自然に目を閉じて、また開くと、そこは水牢の中ではなく見慣れた廃墟の中だった。人形のように放り出していた体には薄っすらと埃が積もっていたが、活動に支障はないと判断して、捨て置く。女性なら身嗜みに気を使ったらどうですと耳の奥で笑う声が聞こえたが、それすら空耳だと切って捨てた。
「眠りたい。眠れない。終わりたい。終われない」
それは今まで幾度となく望み、砕かれてきた願いだった。何度命が終わろうと、私という存在が途切れることはなく、まどろみの刹那見る泡沫の夢だけが生きる糧。
「…何を今更」
このまま永久の眠りにつくことが出来たなら、それはどんなに幸せなことだろう。何者にも煩わされることなく、独りっきりで永遠に、穏やかな眠りにつくことが出来たら――
「……下らない、」
瞬きするよう自然に目を閉じて、また開くと、そこは水牢の中ではなく見慣れた廃墟の中だった。人形のように放り出していた体には薄っすらと埃が積もっていたが、活動に支障はないと判断して、捨て置く。女性なら身嗜みに気を使ったらどうですと耳の奥で笑う声が聞こえたが、それすら空耳だと切って捨てた。
「眠りたい。眠れない。終わりたい。終われない」
それは今まで幾度となく望み、砕かれてきた願いだった。何度命が終わろうと、私という存在が途切れることはなく、まどろみの刹那見る泡沫の夢だけが生きる糧。
「…何を今更」
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