くたりと横になったままぴくりとも動かない。俯せたまま死んだように眠るイツキの傍らで、恭弥は大人しく本を読んでいた。他にすることもしたいこともなく、ただこの場を離れるべきでないことだけは分かっている。イツキの眠りは浅いのだ。
恭弥が側にいて、たまに寄りかかったりちょっかいをかける分には問題ないのに、どこかへ行こうとすればたちどころに目を覚ましてしまう。人が近付いてきた時もそう。この家に来てからイツキは前にも増して自分以外の人間を寄せ付けなくなったと恭弥は思っている。イツキがそれをあからさまに態度で示すことこそないが、少なくとも前の家にいた時より外面が良くなっているのは確かだ。イツキはいつもそうやって面倒事を回避する。今までそれが通用しなかったのは一人だけ。その一人はもういない。もう二度とあの理不尽がイツキの身に降りかかることがないと知った時、恭弥は正直安堵した。そうするより他に何も浮かばなかった。イツキがいらないと思って捨てたものは恭弥にとってもいらないもの。双子なのだからそれが当然だと、恭弥は信じて疑わない。イツキがこうと決めるのは、いつだって恭弥のためなのだ。
「――……」
不意に目を覚ましたイツキが、傍らに放り出していた本を手に取り体を起こす。寝乱れた髪を手早く直し、恭弥と背中合わせに座るまではあっという間だった。服越しの体温が恭弥へ届く頃には、障子を開け放った部屋の前に匠が顔を出す。
「イツキちゃん、恭弥君。ごはんだよー」
「はぁい」
イツキは素直に応えて、立ち上がりがてら恭弥の手を引く。そうされて初めて恭弥は顔を上げた。
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