「…平和だ」
涙ぐみながら沢田が呟くので、私は「平和ね」と殊勝にも同意した。けれど「平和」と称するには部屋の中がとんでもない事になっている。ガラスというガラス、家具という家具は破砕され、まるで暴風でも吹き荒れたような有様だ。確かに「今」が平和である事は事実だし、守護者同士の頂上決戦が部屋一つ分の被害で済んだのならまぁ平和的解決だと言えない事もないかもしれないが。
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は、と唇を食まれて、にわかに呼吸が止まる。目を閉じる事も忘れてただ動けないでいると、不意に目を開けた恭弥と視線が絡んだ。はっと息をした拍子に視線以外のものも絡まって、そもそもなかった距離が更に縮まる。
「んっ…」
ソファーの背もたれに沿って仰け反ると、それを追って恭弥は膝に乗り上げてきた。閉じ込めるよう頭の両側に肘をついて、けれど直接頭を抱え込もうとはしない。それが試されているように思えて、どうしても顔を背ける事が出来なかった。
「――は、」
丁寧に探るよう、ゆっくり口の中を舐め回されて普段なら考えられない早さで息が上がる。
「息、すればいいのに」
ようやく唇が離れてから、それでも鼻先が触れ合うほどの距離で恭弥は呟いた。その声が他意のない、酷く純粋なものだったから逆に居たたまれない。
恭弥が常の調子なら、私だって呼吸のタイミングくらいはかれる。だけど不意打ちでこんなのは卑怯だ。
「…顔、まっかだよ」
お願いだから優しくなんてしないで。
「あんなのと並びたくない」
至極真面目にそう言うと、恭弥は「気が知れない」とでも言いたげな顔をした。
「そういう事、気にするの」
「あそこまであからさまなのをどうやって気にするなと!」
思わず大きな声を出すと迷惑そうな顔をする。
そりゃあ恭弥は気にならないだろうけどね!
「しばらく学ラン着てこようかな…スカート寒いし」
「男に見られるのはいいわけ」
「女として比べられるよりよっぽどね」
「…わからないな」
「そうでしょうよ」
「僕が気にしないって言ってるんだから君も気にしなければいいのに」
「保護者は?」
「書類上いるけど保護はされてない」
「まぁ、いらねぇだろうな」
「わかってるなら聞かないでよ」
「いいじゃねぇか」
「…あ、」
「なんだ?」
「噂なんてするから電話かかってきた」
「保護者か」
「もしもし?」
〈やぁ、元気?〉
「うんまぁ」
〈恭弥君も?〉
「凄く」
〈ならよかった〉
「何か用なの?」
〈ん? んー…まぁ用といったら用かな。ちょっと確認したい事があってね〉
「なに?」
〈最近物騒すぎない?〉
「そんなの今更」
〈まぁそうなんだけどね〉
「状況は把握出来てるけどそれだけじゃ不満?」
〈いや、君が大丈夫だと思ってるのならそれで構わないよ〉
「これまで通り?」
〈うん。これまで通り、並盛は君達の好きにしていい。ただし手が必要ならすぐに言いなさい〉
「…あぁ、なんだ。心配してくれてたの」
〈多少ね〉
「多少?」
〈君に任せておけば大丈夫だって分かってるよ。本当はね、少し声を聞きたくなったんだ〉
「殊勝なこと」
〈たまにはこっちに顔をお出しよ〉
「気が向いたらね」
「イツキ」
「恭弥?」
「出して」
「帰るの?」
「草壁から連絡があった」
「あぁ、そう」
「そっちは誰」
「電話? あの人」
「なんて」
「たまには顔見せに来いって」
「ふぅん」
「声が浮かれてたから酔った勢いでかけてきたんだと思う」
「あの人らしいね」
「イツキ」
伸ばされた手に応えると、恭弥はストンと意識を手放した。力の抜けた体を抱き抱えると逃がすまいとでもするよう腕が回され、嗚呼これじゃあ動けないじゃないかと私は苦笑する。
「恭弥はイツキにべったりだな」
「たった二人っきりの姉弟だもの」
「…両親は?」
「死んだ」
私が殺した。
「冗談にしては…」
「本当よ」
「…いつ」
「三歳の時。だってあの人達離婚して私達のこと別々に引き取るなんて言うんだもの」
「恭弥は知ってんのか」
「言ったら貴方を殺す。邪魔する部下も皆ね」
「お前は…」
「無理だと思う? ためしてみる? 私は別にいいけど貴方が死ぬのが一番最後な事だけは覚えておいてね」
「イツキには黙ってるよう言われたが、恭弥。お前には知る権利があると思うから話しておきたい」
「イツキが両親を殺した話なら知ってる」
「なっ…」
「…それとも別の話だった?」
「知ってたのか…」
「イツキが僕の行動を把握してるのと同じ事さ。僕だって彼女が何をしてるかくらい知ってる。分かったならさっさとやろうよ。イツキが戻ってくるまでに少しは動いておかないと怪しまれる」
「恭弥、お前はっ」
「こう見えて必死なんだ」
「僕が強くないとイツキが無茶をする」
「どう? 似合う?」
「いいんじゃない」
「じゃあ出発」
「群れてる」
「パーティーだし」
「沢田は?」
「挨拶回り中」
「おや、珍しいですね雲雀恭弥。貴方はこのような場所を好まないものと思っていましたが」
「私が無理矢理連れてきたの」
「でしょうね。――ドレス姿は初めて見ましたが、スーツよりよほど似合いますよ」
「ありがとう」
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