100130.
玄関から聞こえてきた扉の開閉音に、自分でもそうと分かるほどあからさまに顔から表情が失せた。力を抜いた腕がぱたりとソファーに落ち、投げ出した指先を見つめながら目を閉じる。
どれほど待とうと睡魔が訪れない事は分かりきっていた。けれど動く気にはなれず、そのまま無為に時間を浪費していく。五分、十分と正確な体内時計が時間を刻んで、痛いくらいの静寂は始業三十分前に破られる。
音源は目の前にあった。ソファーの前に置かれたローテーブルの上。飾り気の無い携帯が紫色のランプを点滅させながら歌っている。――恭弥だ。
呼ばれている、と分かって私は漸く行動を開始する。リビングから寝室へとって返し制服に着替え、携帯と財布だけをポケットに押し込んで家を出た。学校まではどれだけゆっくり歩いても二十分とかからない。
案の定、予鈴が鳴る前には応接室へ顔を出す事が出来た。
「おはよう、恭弥」
「おはよう」
自分の容姿について充分自覚している私は、家の外で不用意に笑顔を振り撒いたりはしない。それでも恭弥と二人っきりの時、自然と頬が緩むのは抑えられなかった。
「遅かったね」
「そう?」
「ギリギリだよ」
「でも間に合ったじゃない」
----
風紀委員が立て続けに襲われているという報告を受け、「あぁもうそんな時期か」と人事のように考えてしまう自分がおかしかった。でもしょうがない。桜クラ病にかかったのは私ではなく恭弥なのだ。
「いってらっしゃい」
いつにない機嫌の良さを自覚したまま恭弥を送り出して一人、抑えきれなくなった笑いを零す。
私は自分が「異質」である事くらいちゃんと理解していた。初めから私だけが異質な異端で不要な存在。だけど私はここにいる。だから私は躊躇わない。
「嗚呼、おかし、」
さぁ引っ掻き回しに行きましょうかと、私はパジャマ代わりのブラウスごと昨日までの「私」を脱ぎ捨てた。
新しく袖を通すのは女子用の制服。新しい私。「雲雀イツキ」としてではなくただの「イツキ」として、私は意気揚々と家を出た。
まずは恭弥と合流しなければ。
平日は滅多に乗らないバイクで並中前に乗り付けた私を見て、恭弥は笑った。
「気が利くでしょう」
ハンドルを明け渡せば、はっきりとした肯定も否定もないままあっという間に景色が流れ出す。
玄関から聞こえてきた扉の開閉音に、自分でもそうと分かるほどあからさまに顔から表情が失せた。力を抜いた腕がぱたりとソファーに落ち、投げ出した指先を見つめながら目を閉じる。
どれほど待とうと睡魔が訪れない事は分かりきっていた。けれど動く気にはなれず、そのまま無為に時間を浪費していく。五分、十分と正確な体内時計が時間を刻んで、痛いくらいの静寂は始業三十分前に破られる。
音源は目の前にあった。ソファーの前に置かれたローテーブルの上。飾り気の無い携帯が紫色のランプを点滅させながら歌っている。――恭弥だ。
呼ばれている、と分かって私は漸く行動を開始する。リビングから寝室へとって返し制服に着替え、携帯と財布だけをポケットに押し込んで家を出た。学校まではどれだけゆっくり歩いても二十分とかからない。
案の定、予鈴が鳴る前には応接室へ顔を出す事が出来た。
「おはよう、恭弥」
「おはよう」
自分の容姿について充分自覚している私は、家の外で不用意に笑顔を振り撒いたりはしない。それでも恭弥と二人っきりの時、自然と頬が緩むのは抑えられなかった。
「遅かったね」
「そう?」
「ギリギリだよ」
「でも間に合ったじゃない」
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風紀委員が立て続けに襲われているという報告を受け、「あぁもうそんな時期か」と人事のように考えてしまう自分がおかしかった。でもしょうがない。桜クラ病にかかったのは私ではなく恭弥なのだ。
「いってらっしゃい」
いつにない機嫌の良さを自覚したまま恭弥を送り出して一人、抑えきれなくなった笑いを零す。
私は自分が「異質」である事くらいちゃんと理解していた。初めから私だけが異質な異端で不要な存在。だけど私はここにいる。だから私は躊躇わない。
「嗚呼、おかし、」
さぁ引っ掻き回しに行きましょうかと、私はパジャマ代わりのブラウスごと昨日までの「私」を脱ぎ捨てた。
新しく袖を通すのは女子用の制服。新しい私。「雲雀イツキ」としてではなくただの「イツキ」として、私は意気揚々と家を出た。
まずは恭弥と合流しなければ。
平日は滅多に乗らないバイクで並中前に乗り付けた私を見て、恭弥は笑った。
「気が利くでしょう」
ハンドルを明け渡せば、はっきりとした肯定も否定もないままあっという間に景色が流れ出す。
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