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 がつりと打ち付けた頭に一瞬意識が飛びかける。打ち所が悪いと、根拠もない確信が次の行動を急かしながら邪魔していた。
 立ち上がれ。まだ動くな。反撃を。安静に。戦え。もうやめろ。――報復を!

「――……、」

 痛む頭の中で思考が錯綜したのは刹那。結論を待たずに動き出した体が何より正直で、何もかもをねじ伏せるまでに結局二分もかからなかった。
 終わってみればどうして一撃くらってしまったのか分からないほど呆気無い。

「    」
「…何か言った?」

 だけどその代償は大きかった。

(なにもきこえない)


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「匣の研究したいから出資して」
「…うちのラボでやれば?」

(唐突ブラザー)


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 藤堂の家に来てからある程度制限されていた行動範囲を広げる条件として匠は私たちに見張りを付けた。どこで何をしてもいい代わりに必ず天谷を側に置くこと。お世話係だと言われた女性がけしてそのためだけにいる人でないことは明白だった。ただそれが恭弥にとって悪いものでなければ私に不満はないし、そもそも天谷のことは決定事項で、その判断に私たちの意思が介在する余地はない。

(護衛>世話)


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「匠様」
「なんだい?」
「お嬢様なのですが…」
「イツキちゃん?」
「どういう育ち方をしたらあんな野生動物になるんですか」
「何かあったの?」
「人の気配に対して過敏にも程がありますよ。二つ隣の部屋にいる私に気付くってどういうことですか」
「それは凄いね」
「喜ばないでください。あと、その関係でお二人の部屋を移したいのですが…」
「あぁ、うん。そうだね。移したほうがいい。好きな部屋使っていいよ」
「ありがとうございます」

(護衛=殺し屋)


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「あまやさん」
「はい?」
「ありがとう」
「…なんのことでしょう?」
「いいたかっただけ」

(平仮名しゃべり可愛くないか)


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 一口含んで咄嗟に手が伸びた。恭弥が持っていたコップを叩き落として、けほりと飲み込みそうになった「お茶」を吐き出す。

「おねえちゃん?」

 それでも口に入ってしまったものはどうしようもなくて、体が一気に熱を持つのが分かった。
 激しくむせ込む音を異常と聞きつけ戻ってきた天谷の顔が青褪める。

「お嬢様!!」

(どくもられた)


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「毒が効かないってどんな五歳児!?」

「――毒?」
「あ……――申し訳ありません、報告します」
「そうしてくれるかな」

(犯人≠天谷)


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「…大丈夫」
「そんなわけ…っ」
「本当に大丈夫よ。騒がないで。恭弥が心配する」
「お嬢様…」
「体に害があるほど飲んでないから」

(よくあること)


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 人を殺すために育てられた私に匠は人を守れと言う。それも小さな子供を。
 殺すことならたやすいだろう。私はそういうものなのだ。けれど生かすことは難しい。簡単であるはずがない。

(こわしてしまいそうでいやなんだ)


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 天谷の気配は読みづらい。それでも部屋に入ってくれば分かるから、必然眠っていた私の目も覚める。

「申し訳ありません…」
「……」

 恭弥と二人。畳でごろ寝する私たちの上にタオルケットを広げて、天谷は本当に申し訳なさそうに目尻を下げた。
 せっかく寝た振りをしたままやり過ごしてあげようと思ってたのに。

「…あやまらなくてもいいのに」

 軽く体を起こして枕代わりにしたクッションの形を直しながら更に恭弥の方へ身を寄せて、また横になる。
 ふわりと肩までかけられたタオルケットからは温かい匂いがした。

「隣の部屋にいますから、何かあれば呼んでくださいね」
「うん」

(姉は慣れた)


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「雲雀君のそれは癖ですか?」
「…恭弥がなに?」
「イツキよりも先に料理に手をつけない」
「…あぁ、そのこと」

「まあ、癖と言えば癖なんでしょうね」

「あなたが毒見を?」
「そういうことが月に一度はあるような家にいたし、私なら少しくらい口に入れても平気だから」

(普通に一緒に飯食ってる骸)


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「恭弥、それ食べちゃ駄目」
「なに、また?」
「これきっつい……何の毒だろ…」
「ねぇ、早くそっち食べてよ」
「まだ舌痺れてるのに…」

(慣れた弟容赦無い)


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「天谷、天谷。それを私に頂戴な」

 差し出されたのは子供の手。その瓶を渡せと乞うてくる。いつになく年相応の笑みを浮かべたイツキに天谷は戦慄した。つい数時間前まで見知らぬ誰かの悪意によって苦しめられていたとは思えないその笑顔はあまりに完璧でいて、――無邪気すぎる。

「ありがとう」
「っ!」

 手に入れたばかりの「瓶」をみすみす渡してしまったことに気付いたのはイツキにくるりと背を向けられてから。愕然としながら天谷は足取り軽く駆けていくイツキを見送りかけて、はっと我に返りその後を追った。

「お嬢様!?」

(証拠持ち逃げ)


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「――お前だ!!」

 どこにそんな力があったのか、女とはいえ成人した大人一人引き倒して馬乗りになったイツキは、天谷が止める間もなく瓶の蓋を開け中身を女の顔へぶちまけた。

(暴挙)


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「同じことがあれば私は何度だって同じことをするわ。だって、そうでしょう? 許せるはずなんてないじゃない。――あの女は恭弥を殺そうとした!!」


「分かってるつもりだったけど、改めて見せつけられると凄まじいね」
「申し訳ありません。私がついていながら…」
「別に謝ることはないよ。元々こうするつもりだったし。たまたまそれが今日で、たまたま手を下したのがイツキちゃんだったってだけ」
「しかし…」
「イツキちゃんがそういう子だって、知ってて引き取ったんだ。――将来が楽しみでいいじゃない」

(小さくなっても頭脳は同じ+証拠=処刑。ただし推理=本能)


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「姉さん」
「…なぁに? 恭弥」
「自分のせいだと思ってる?」
「…思ってない」
「そう。なら、いいよ」
「つらく、ない?」
「姉さんの方がつらそうな顔してる」
「そんなこと…」
「あるよ」

(弟だと寝込む)


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「恭弥君の呼び方はさ、なんていうか「僕のお姉ちゃん!」って感じでいいよね」
「…なにそれ」

(また馬鹿なこと言い出した)
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