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「あの子は間違えた」

 だから放ってはおけないのだと、リカコは言う。その言葉が意味するところを、ユキエは嫌というほど知っていた。

「ですが…」

 もういらない。自分の言うことを聞かない子など子ではないのだと、言っているのだ。だからどこでどうなろうと知ったことではない、と。

「あの子のことは、既に伊岐[イキ]の者に頼んでいます」
「伊岐の…言霊の一族にですか? そこまでする必要は…」
「知霞[チカ]を出た以上、当然の措置です」

 嗚呼、この人には母としての情すらないのか。

「母さん」
「幸い、あの子は二人目の子を残して行きました」

 リカコに対する失望がじわじわとユキエの胸を満たしていった。同時にこれから辛い人生を送ることになるだろう妹と、その子供たちへの深い憐れみを覚えて目を伏せる。

「彩花[アヤカ]は貴女が育てなさい」
「……はい…」

 だからせめて、自分が預かる子供だけは、我が子のように守り育てよう。

「彩花にはいずれ、私の後を継いでもらいます」
「そんな…!」

 ユキエのそんな思いすら、リカコは踏みにじる。

「それが彩光のためです」

 全ての過ちを正当化するその言葉は、リカコの口癖だ。今まで何人もの人がその言葉の犠牲になってきた。
 そして彼女は、自分の実の娘さえその毒牙にかけることを厭わない。

「いいですね」

 嗚呼、彼女はもうとうに自分たちの母ではなかったのだと、ユキエは今更ながらに痛感した。

「はい…」

 その胸に彩光――ひいては知霞――を治める者の証を受けた日から、きっと彼女は人ですらない。人並みの情など、あるはずがないのだ。

「では、行きなさい」

 いずれ自分も妹たちのように切り捨てられてしまうのだろうかと、ユキエは底冷えするような気持ちになりながらリカコの部屋を後にした。



彩花が暁羽と引き離されたのは生まれてすぐだった 失敗失敗
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