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「ほらご覧、華月様だ」

 そう言って、母はそっと頭を下げる。庭へ面した廊下に座るその人は、そんな母を見てちょっと困ったように頬をかいた。

「あの人が?」
「そうよ」

 母が「華月様」と呼んだのは、私と同じくらいの背格好をした男の子。でも、いつも儀式で大人たちに「華月様」と呼ばれているのは、すらりと背の高い女の人だ。
 髪の色も目の色も、纏っている雰囲気さえ違うのに、母はどうして二人を同じ名前で呼ぶのだろう。

「華月様は二人いるの?」

 私が素直にそう尋ねると、母は優しく微笑んで首を横に振った。そして「華月様はお一人よ」と、五歳の私には理解できない真実を告げる。
 きっと、知っておくだけでいいと思ったのだろう。

「でもね、姿はお一つではないの」

 母の言葉が呑み込めなくて、私は小さい方の華月様に目を向ける。そうすれば答が得られるわけでもないのに、じっと見つめてくる私がおかしかったのか、小さい華月様はくすりと笑って目を閉じた。

「あっ」

 驚いた私が思わず声を上げると、《大きい華月様》は人差し指を唇に当てて、またすぐに《小さい華月様》へ戻ってしまう。
 「内緒だよ」と、そう耳元で囁かれたような気がして、私は力いっぱい首を縦に振った。
 
「よかったわね」
「うん!」
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