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小噺専用
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 ゆっくりと、ながーい時間をかけていいのだと、優しい声は言った。だから私はゆっくりと、ながーい時間をかけて育っていく。そうしていいと、優しい声が言ったから。










「いらっしゃいませ」
「―――」

 にっこり。――まさにそう表現するに相応しい完璧な笑顔を浮かべる受付嬢に、羽音は魔法の言葉を囁いた。すると途端、安っぽい量産型のヒューマノイドはその目に羽音を映さなくなる。

「失礼」

 その横を悠々とすり抜けて、エントランスを後にした。機械による警備システムも、魔法による結界も、何もかもをすり抜けて、向かうは地下研究室。表向きには存在しない、十三番目の部屋。

「――――」

 最後の電子錠を焼き切った羽音の前に現れたのは、それまでの迷路のような廊下とは違う、広くがらんとした部屋だった。こじ開けた扉以外に出入り口はなく、そこが正真正銘行き止まり。――つまり、羽音の探していたもののある部屋だ。
 そして羽音は、既に見つけていた。部屋の中央に立てられた円柱のガラスケース。淡い水色の液体で満たされた、その中に。

「おまたせ」

 浮かべられたのは小さな小さな、真白い卵。その卵に向かって、羽音は誰と話す時とも違う優しい声で語りかける。

「迎えに来たよ、お姫様」

 卵は震えた。小さく小さく、まるで羽音の言葉に答えるかのように。

「さぁ、行こうか」

 羽音は囁く。この世で最も魔術に適した言語によって紡ぎだされる魔法は、羽音と卵をそっと包み込み研究室から連れ去った。
 残されたのは空っぽのガラスケースと、使い物にならなくなった沢山の鍵。けれど誰もそのことに気付かない。羽音によってかけられた魔法は、もう暫く、沢山の人を騙し続けた。










「もしもの話をしようか」

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