――気を抜くな、逃げられるぞ
ギチギチと耳障りな音をたて軋む鎖。頭の中で響いたここにはいない女の声。揺らぐ力。
「カヅキ!」
「無茶言ってんなよオイ・・・っ」
たわんだ結界。
「だから狭霧[サギリ]に優男って言われるのよっ。――狂神の力は緩まり陽光の光は届かない、その束縛解き放て!」
膝を突いた華月を置き去りにして駆け出し、暁羽は矢継ぎ早に結界を解いた。
外界と遮断されていた内界に風の流れが戻る。同時に、鎖を引きちぎろうとする力も強まった。
「お願いだからもってよ・・」
一直線に伸びた鎖に沿って走る暁羽がそう呟いた直後、最後の砦である「古の鎖」はあっけなく地を這った。千切れたのではない。
「なんて面倒な仕事」
低く、吐き捨てるように暁羽は毒づいた。
進行方向から聞こえてくる金属音は空耳であると信じたい。
「カヅキ!」
叫ばれた名と揮われた腕に呼応して、不可視の刃が現れた妖狼に迫る。
それを憎らしいほど易々と避け、妖狼は暁羽に肉迫した。
ギラついた牙が喉首に突き立てられ、絶命する、刹那。
「――拒絶する」
どこか諦めたような表情で暁羽は告げた。たった一言だけ、拒絶する、と。
その言葉によって発現した力は、妖狼どころか周囲のあらゆる物を吹き飛ばし、絵に描いたような島の平穏を打ち破った。
「古の鎖」
妖狼の首に絡んだまま、ずるずると引きずられていた鎖が新たな命[メイ]を受け動き出す。
「捕縛せよ。そは服わぬ力、許されざる不服従を拒絶し力を示せ」
勝負はすぐについた。
「あーきーはー?」
日も昇って久しい時間帯。夕凪[ユウナギ]はぐっすり――というよりはぐったり――と眠るルームメイトの耳元で、努めて優しく囁いた。
「・・・・・なに・・?」
本当は起こしたくなどない。けれど起こさなければならない理由が、夕凪の手には握られている。
「夜おそーく帰って疲れてるとこ悪いけど、端末鳴ってる」
「ん・・ごめん」
赤いランプでの着信。
「気にしないで。――私講義あるから行くね?」
それを見た暁羽が目を瞠り、夕凪は彼女の手に端末を落とし込むと、鞄片手に部屋を出た。
「――もしもし?」
ぱたりと扉が閉じ、オートロックのランプが青から赤に変わる。
<モーニングコールには遅かったか?>
「・・あの妖狼がどうかしたの?」
電話越しに聞こえた女の声に、眩暈にも似たふらつきを覚え、暁羽は起き上がったばかりのベッドに逆戻りした。
倒れこんだ拍子にスプリングが悲鳴じみた声を上げたが、そんなことは気にならない。
<いいや、大人しいものさ。お前の捕まえ方が相当手荒かったとみえる>
「なら何の用?」
<お前、まだ巫女守[ミコモリ]を決めていなかったな?>
「・・下手な能力者を守につけても邪魔なだけ」
<だがこのままという訳にもいくまい?>
「何が言いたいの」
<遅くなったが姫巫女就任祝いだ。受け取れ>
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