緩やかに流れていく日常を、謳歌するようにリナは空を仰いだ。
伸ばした手が雲を掴むことはないが、気まぐれな風が指先を掠め駆けて行くだけで、自然と笑みが零れる。
「ねー恭弥、今度どこか遊び行こうよ」
世界はこんなにも温かい。私はそれを知っている。「温もり」を感じる「心」を獲得し、惜しみない温もりを与えられたから。
「――・・どこかって?」
「私の知らないところ」
晴れ渡る空から午睡を邪魔された雲雀へと目を移し、リナは屋上の中央へと一歩進み出る。
「私が行ったことのないところ」
「いいけど、いつ?」
「いつでもいいの。でも、約束は今して」
リナが光を背にしているせいで、雲雀にその表情を窺い知ることは出来なかった。
持ち上げた手を光に翳し――けれどリナの姿は遮らない――、雲雀は光の眩しさとは別の眩しさに目を細める。
「約束するよ」
君のためだけに、とはあえて言わなかった。
言わずとも伝わるだろうという傲慢な感情と、こんな想い自分だけが知っていれば十分だという、天邪鬼な感情がぐるぐると奇妙な螺旋を描く。
「ありがとう」
この世の光を集めたような彼女の存在が、誰よりも深い闇を内包しているという事実を、今は僕と彼女だけが知っていた。
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