「・・・あれ?」
沖縄を離れてから、船の下層部にある貨物室にほったらかしにしていたバイクには、いつのまにかサイドカーがつけられていた。
もちろん琥珀がつけたものではない。小回りが利かず、乗せる人もいないので、今まで必要としたことすらなかった。
「どうかしたの?」
遅れて貨物室に現れたルヴィアが、バイクの覆いを取り払ったまま立ち尽くす琥珀の向こうを、彼女の背中ごしに覗き込む。
「・・まぁいいか」
「?」
「気にしないでください。独り言です」
ルヴィアと出掛ける分にはあって困ることはないだろうと自己完結して、琥珀はバイクを固定する金具に手をかけた。
「ハッピー・パースデイ、琥珀」
「――ぇ?」
「って、書いてあるけど?」
何のことかと顔を上げた琥珀に見えるよう、ルヴィアはサイドカーの座席から拾い上げたカードをひらつかせる。
(あぁ、そうか・・)
その、飾り気のない紙切れとも呼びうるカードに記された、思いがけず繊細な筆跡には見覚えがあった。
「桜って誰?」
「盾であたしの面倒を見てくれた人です」
「どんな人?」
「自分の目で見た物しか信じない、子供みたいに笑う人」
誕生日がないのなら、ルヴィアと出会った始まりの日にすればいいと言ったのも桜だった。
「琥珀はこの人に守られたのね」
「・・・はい」
周囲の反対も押し切ってあたしにジョエルの日記を見せ、銃の扱いを教え、小夜に最も近い――ルヴィアに会える可能性の最も高い――最前線の任務にあたしを推してくれたのも桜。
一昨年の誕生日には、免許もないのにこのバイクをくれた。
――人の子って分からないものね
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