――雨が降っていた。さらさらと綺麗な音をたてながら、今ここにある現実を洗い流すことなんで出来もしないくせに、赤い水溜りだけをぼやかして、無責任にも、あの人の体温を奪い去っていく。
俺は立ち尽くしていた。降りしきる雨に濡れながら、今ここにある現実を消し去ってしまえる術を手探り、流れるように血の気を失う表情と、伴って広がり、ぼやかされる血溜りを呆然と見つめる。
「な、ぁ…」
こんなはずではなかった。
「起きろよ」
撃たれるのは、狙われたのは俺だった。
「俺を庇うなんて、馬鹿じゃねぇの…」
俺は見たんだ。黒光りする銃口と、絞られる引き金、乾いた音共に放たれた銃弾を。
それでいいと思ったんだ。もう行くところなんてない、哀しむ人なんていない、だからここで終わるならそれでもいいと。
「起きろよっ…!」
でもあんたが邪魔をした。俺と銃弾の間に立ちはだかって、冷たい死の抱擁から俺の命を遠ざけた。そんなことする義理も義務もあんたにはない。俺たちは出会って半月も経たない赤の他人で、あんたは、俺の名前だって知りはしないのに。
「あんたが死ぬ理由なんてないだろ?」
あんたが死ぬ必要なんてない。あんたは何も悪くない。だから死なないで。
「なあ!」
俺のキング――
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