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小噺専用
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 雲に覆われているわけでもないのに灰色がかった空に見下ろされ、息苦しささえ忘れたスラム。絶望で満たされた掃き溜め。たかが人間ごときの手で掴むことの出来るものなどないのだと、誰もが知りながら薄っぺらい生を謳うことやめない。生きていられるだけで幸せだなんて、本当は誰も思っちゃいないのに。
「キング」
「…今行く」
 皆に慕われここを治めていたスラムキングはもういない。あの爺さんが死んでからだ。このスラムの闇が濃さを増したのは。
「なんかあったのか」
 ガキ共が持ち込んだ銃の暴発であっけなく死んだ。爺さんらしいといえばそう。でも、ガキで溢れたこのスラムには爺さんの存在が必要だった。
「西地区の連中だよ。あいつらお前の忠告なんて全然聞いちゃいないんだぜ」
 三十まで生きられたら幸せ、四十まで生きられたら奇跡、五十を越えたらそいつはバケモノ。――ここはそういう場所。だからこそ、年寄りの思慮深さと知識はなくてはならない。
「かまわねーよ、死なせてやれ」
 自分たちが持ち込んだ銃の暴発で死ぬのならそれは自業自得だと、俺なら割り切れる。手を伸ばさずに、ガキ共が息絶える様をただ見ていることだってできる。でもそんなガキ共をスラムキングの爺さんは庇って死んだ。だからこそ、あの人はまだ必要。せめて次のキングを育て上げ、そいつがキングとして独り立ちするまでは、必要だった。
「死ねるなら幸せさ。俺はアンダーグラウンドの連中に捕まることの方がが怖いね」
「…俺が行く。お前は何人か連れて南に回れ」
 俺だって時が戻らないこと、死が覆らないことくらい知っている。なのに爺さんの存在を望んでしまうのは、現状に満足しきれていないせいだ。
「南?」
 爺さんが生きてるうちはよかった。あの頃の俺は、自分が生きるためだけに毎日を費やして、時折爺さんの話す世界や神、精霊、魔法なんかの話を聞いていればよかったんだから。
「そろそろ見回りの時期だろ」
「あ、そうか…了解」
 なのに今はなんて不自由なんだろう。
「ヤバそうだったら戻れよ」
「わかってるって」
 爺さんが死んで、周囲が次のキングにと望んだのは他の誰でもなく俺だった。
「キングこそ気をつけろよ」
「あぁ」
 行くあてもなく彷徨い、そしてこのスラムに辿り着いた薄汚い子供。それが俺。他人の死に興味を示さず、まるで感情すら持たない人形であるかのように振舞っていたのに、爺さんが俺の事を気に入り手元に置いていたせいでこのザマだ。笑えないにもほどがある。
「…雨か」
 今やスラムは俺の国。俺はスラムの囚われ人。

 ――私を呼んで。

「ッ――」
 憶えのある音が轟いて、俺の意識は唐突にブラックアウトした。
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