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小噺専用
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 ――穏やかな顔で俺を手招き、スラムキングは自分の隣を軽く叩く。そこに座れと、この爺さんは言っているのだ。
「んだよ」
 逆らったってなんてことはない。なのに従ってしまうのは爺さんの持つ空気のせいだ。スラムには縁のない、酷く温かで柔らかい雰囲気。
「頬に血がついているよ。また誰かと喧嘩したんだね」
「売られたから、買っただけだ…」
 知らぬ間に感化される。
「無闇に傷つけてはいけないよ。傷つけただけ傷つけられてしまうからね」
「…いつか報いを受けるって言いたいのかよ」
「あるいは既に受けているのかもしれない」
「……」
 だからこの爺さんは嫌いだ。何も知らないくせに、全部知っているような顔をして、俺の中を掻き回す。
「私にはわからないけどね。全部平等なんだよ、それだけは憶えておいで」
「あぁ…」
 少しずつ少しずつ、俺が捨てた〝俺〟を俺の中から引きずり出す。
「お行き。もうすぐ雨が降る。それまでに帰りなさい」
「引き止めといてよくゆーぜ」

「気をつけて」

「あぁ。…また来る」
 空は濁った灰色をしていた。
「私はいつでも、ここにいるからね」
 温かい大気が頬を撫で、俺は誘われるように外へ出る。
「お前は独りじゃないよ」
 何を馬鹿なことを言ってるんだと、その時は思った。でも――

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