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「――待ちくたびれましたよ」


 集中治療室。――扉の上に掲げられたプレートにはそう記されていた。


「これでも急いだんだから許して」
「無理を言ってすいません」
「構わないわ」


 だがその中で大人しく治療を受けているべき少女は呼吸器を外し、何でもないように体を起こしている。
 その腕に点滴こそ繋がれているが、それはリナが無理やりに引きちぎろうとはするなと言い含めていたせいだろう。


「服持ってきたから、一旦戻って」
「おや、僕はこのままでも構いませんが?」
「私とこの子が構うのよ」
「仕方ありませんね」


 ふっ、とほんの刹那意識を失ったように見えたが、リナの手を借りるまでもなく華奢な体が倒れることはなかった。
 何度か瞬いた幼い瞳が、やがてまたリナを捉える。


「あなたが、浅葱さま・・?」
「それも私の名前の一つ。でも、リナと呼んでくれると嬉しい。その名前はとても特別なものだから」
「リナ、さま」
「様もいらない。骸に何言われたか知らないけど、私は貴女と対等でありたいと思ってる」
「・・・リナ」
「そう、それでいい。・・貴女の名前は?」
「凪・・」


 今にも零れ落ちてしまいそうな目だ。ついさっきまではあんなにも落ち着いていたのに、今はもう不安と戸惑いで一杯。なのに恐怖は一欠片もない。


「じゃあ凪、私と逃げてくれる?」
「どこへ?」
「貴女が貴女の生きたいように生きられる場所へ」


 眩しいほどに、彼女の存在は真っ直ぐだった。


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