遠くに大きな力の発現を感じて、美香[ウツカ]は足を止めました。命がけの乱闘の只中です。刀の切っ先を下げた美香は恰好の的でしたが、十数人はくだらない狩人の誰一人として、彼女を傷付けることはできませんでした。
彼らは優秀な狩人です。けれどそれ以前に、愚鈍な獲物でもあったのです。
「イヴが気にしてた錬金術師かな…」
美香の独り言のような呟きを聞いた獲物はいませんでした。
「…かえろ、」
崩れ落ちた死体は、どれも砂となって風に流されていきます。久々の食事を終え満足気な愛刀――如月[キサラギ]――を鞘へ収めて、美香はとん、と軽く地面を蹴りました。
《次元の狭間》を渡って、美香が向かったのはついさっき感じた力の発現場所です。
「――来たのか」
そこには美香の予想したとおり、《銀の魔女》ことイヴリースが佇んでいました。
けれど美香の予想に反して、その表情はあまり明るくはありません。
「イヴ?」
イヴリースはこの世界で見つけた一つの存在を、ずっと観察し続けていました。その存在に、隔絶された世界を人のみで越える可能性を見出したからです。
そしてついに今日、イヴリースの観察対象は世界を飛び越えました。
美香からしてみれば、イヴリースが上機嫌で口笛を吹いていたって不思議はありません。なのに彼女はどこか不満気で、まるで大切にしていた玩具を壊してしまった子供のような顔で立ち尽くしています。
「イヴ、どうかしたの?」
美香の言葉に、イヴリースは小さく首を横に振りました。
「なんでもない」
とてもそうは見えませんでした。けれど美香はそれ以上何も言わず、先に帰るわねとだけ言い残してこの世界を後にします。
残されたイヴリースの足下には、小さな石が一つだけ落ちていました。
「これがお前の願いなのか? レイシス」
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