ポケットに押し込んだ携帯が何度目かの電子音を奏でる。家々の屋根を飛び越え夜の街を駆ける羽音はいい加減それが鬱陶しくなって、一度足を止めた。電話の相手はわかっている。
「――もしもし?」
〈今どこにいる?〉
「そっとしておいてくれたら七秒で合流できる位置」
〈…急げよ〉
短いやり取りで通話は切れた。遠くに見えるカンパニーの本社ビルを見遣って、羽音は深々と息を吐く。――余計な連絡さえなければ今頃合流できていた。
たたん、とそれまでより強く跳躍した羽音の足音が、澄んだ夜に響く。
「お待たせ」
羽音は電話口で告げた時間よりも二秒早く仲間に合流した。
着地の瞬間乱れた髪を肩口から背へと払う動作は女性的だが、やはり中性的な奴だと、羽音の到着を待ち構えていた雪夜の双子の姉・雪奈は内心呟く。
「遅い」
「集合時刻を聞きそびれたもので」
黒のボディースーツに身を包む雪奈と違って、羽音はいつもと変わらないコート姿だった。ただしその色は、雪奈のボディースーツよりも断然闇に近い漆黒。月と同じ色をした髪と紙のように白い肌がなければ、夜目の聞く雪奈でさえその姿を見失ってしまいそうになる。
「…流風、」
「――いいよ、始めよう」
羽音の不在を理由に双子を引き止めていた流風が、雪夜に急かされゴーサインを出した。羽音に噛み付く理由を失くした雪奈は雪夜を鋭く睨む。
「行くぞ、雪奈」
雪夜はさっと身を翻し駆け出した。雪奈も弾かれたようそれに続く。
「君も行ってくれるかな、羽音。二人だけじゃ心配だ」
「僕が行ったら二人は要らなくなるけど?」
「そんなことはないよ」
「…わかった」
遅れて羽音も駆け出した。
カンパニー本社ビルのエントランスは、時間が時間なだけあって固く閉ざされている。それを遠くから見て取った羽音は、前を走る双子を易々と抜き去り片手を構えた。
「―――」
深く息を吸って、鋭く吐く。呼吸にあわせ振り抜いた腕から、研ぎ澄まされた力が放たれた。魔法と呼べるような代物ではない、純粋な魔力の塊は一直線に飛んで、音もなく爆発する。
次の瞬間、エントランスは見るも無残に吹き飛んでいた。
確かに起きた爆発にたった一つ、音という要素が欠けるだけでこれほど異様な事態になるのかと、双子は俄かに戦慄する。これが一見、人畜無害そうな顔をしている羽音が《死神》と恐れられる所以だ。彼――もしくは、彼女――の魔力は、桁が違いすぎる。
「……」
羽音は無言でガラスとコンクリート片の飛び散ったエントランス跡を駆け抜けた。その足取りに迷いはなく、逆に後を行く双子の方が、格の違いを見せ付けられ足が鈍っている。
「あんなのに背中預けて仕事してたわけ? 私たち」
「正面きって対峙するよりマシだろ。…行こうぜ」
心からの本音を口にして、雪夜は雪奈を促した。
羽音の姿はもう、二人の視界にはない。
「――もしもし?」
〈今どこにいる?〉
「そっとしておいてくれたら七秒で合流できる位置」
〈…急げよ〉
短いやり取りで通話は切れた。遠くに見えるカンパニーの本社ビルを見遣って、羽音は深々と息を吐く。――余計な連絡さえなければ今頃合流できていた。
たたん、とそれまでより強く跳躍した羽音の足音が、澄んだ夜に響く。
「お待たせ」
羽音は電話口で告げた時間よりも二秒早く仲間に合流した。
着地の瞬間乱れた髪を肩口から背へと払う動作は女性的だが、やはり中性的な奴だと、羽音の到着を待ち構えていた雪夜の双子の姉・雪奈は内心呟く。
「遅い」
「集合時刻を聞きそびれたもので」
黒のボディースーツに身を包む雪奈と違って、羽音はいつもと変わらないコート姿だった。ただしその色は、雪奈のボディースーツよりも断然闇に近い漆黒。月と同じ色をした髪と紙のように白い肌がなければ、夜目の聞く雪奈でさえその姿を見失ってしまいそうになる。
「…流風、」
「――いいよ、始めよう」
羽音の不在を理由に双子を引き止めていた流風が、雪夜に急かされゴーサインを出した。羽音に噛み付く理由を失くした雪奈は雪夜を鋭く睨む。
「行くぞ、雪奈」
雪夜はさっと身を翻し駆け出した。雪奈も弾かれたようそれに続く。
「君も行ってくれるかな、羽音。二人だけじゃ心配だ」
「僕が行ったら二人は要らなくなるけど?」
「そんなことはないよ」
「…わかった」
遅れて羽音も駆け出した。
カンパニー本社ビルのエントランスは、時間が時間なだけあって固く閉ざされている。それを遠くから見て取った羽音は、前を走る双子を易々と抜き去り片手を構えた。
「―――」
深く息を吸って、鋭く吐く。呼吸にあわせ振り抜いた腕から、研ぎ澄まされた力が放たれた。魔法と呼べるような代物ではない、純粋な魔力の塊は一直線に飛んで、音もなく爆発する。
次の瞬間、エントランスは見るも無残に吹き飛んでいた。
確かに起きた爆発にたった一つ、音という要素が欠けるだけでこれほど異様な事態になるのかと、双子は俄かに戦慄する。これが一見、人畜無害そうな顔をしている羽音が《死神》と恐れられる所以だ。彼――もしくは、彼女――の魔力は、桁が違いすぎる。
「……」
羽音は無言でガラスとコンクリート片の飛び散ったエントランス跡を駆け抜けた。その足取りに迷いはなく、逆に後を行く双子の方が、格の違いを見せ付けられ足が鈍っている。
「あんなのに背中預けて仕事してたわけ? 私たち」
「正面きって対峙するよりマシだろ。…行こうぜ」
心からの本音を口にして、雪夜は雪奈を促した。
羽音の姿はもう、二人の視界にはない。
PR
カテゴリー
最新記事
(08/25)
(08/04)
(07/28)
(07/28)
(07/14)
(07/13)
(06/02)
カウンタ
検索