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 《扉の廊下》――そう呼ばれる場所に、藤彩[フジアヤ]は立っていました。長い藤色の髪は風もないのに優しく揺れ、同じ色をした瞳の奥には、綺麗な光が宿っています。
 藤彩は思案していました。
 《扉の廊下》は、その名の通り、扉しかない廊下です。緩くカーブした廊下の見える限りには、左右で均等に白い扉が並んでいます。鍵穴に鍵が刺さっている扉には模様がなく、そうでない扉には、びっしりと繊細な幾何学模様が刻まれていました。
 それが、目印なのです。
 一つ一つが別の世界へ繋がる扉を並べた《扉の廊下》で、藤彩は思案していました。暇を潰すことが目的でしたから、あまり面倒な世界へは行きたくありません。けれど藤彩には、扉に刻まれた模様を読み解くことが出来ないのです。
 間の悪いことに、それが出来る知り合いは二人ともが外出中でした。
 いっそ出かけるのを諦めてしまおうかと、藤彩は考えます。一か八かの賭けと退屈なら、まだ退屈の方がいいような気がしました。何しろ今回は自分一人。もしもの時、哂いながらも手を貸してくれる《銀の魔女》はいないのです。
 悩んだ末、大人しく退屈を持て余していることにした藤彩は、くるりと踵を返し《扉の廊下》を後にしました。
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