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 開いてはいけないよ。



 火の海となりつつある住み慣れた家。足音のない男たち。
 目前にまで迫る死の腕[カイナ]から、私はどうすれば逃げおおせる事が出来る?



 開いてはいけないよ。



 何もしなければ背後の足音――もしくは目前の炎――が確実に私の命を奪うだろう。
 けれどそう易々と殺されてやるわけにもいかない。



 ――呼べよ。



 だって、そう。



「アッシュ」



 私の命は私だけのもの。



「アッシュ・オフィーリア」



 なら奴らにくれてやる事なんてない。



「あいつ等を消しなさい!」



 そうでしょう?



「――仰せのままに」



 私の悪魔。



































「いいかい? アリア、決してその本を開いてはいけないよ」
「でも手放してもいけないんでしょ? 父さん」



 幼い両腕で抱いた、血の様に紅い装丁の本。
 父さんは言った。「それは禁書だからね」と、「それには恐ろしい悪魔が封じられているから」と。



「大丈夫、わかってるよ」



 でもね、父さん。父さんは知らなかったでしょう?



「私は絶対にこの本を手放さないし、開いたりもしない」



 とっくの昔に封印はとけていたのよ。



「そんなに心配しなくても大丈夫」



 だけど私は嘘をついたの。



「大丈夫だよ」



 私の悪魔を誰にも奪われたくなかったから。
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